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しらゆきはな
しらゆきはな
「手、繋いで良い?」
薬臭い檻からやっと脱出して、傍らに咲く花に尋ねる。
「うん」
白い花が恥じらうように微笑み、右手を荒太の左手に添えた。彼女の左手の薬指には青紫のタンザナイトが光る。ただ繋ぐのでは足りず荒太は真白の指に指を絡めた。逃れられないように。ほっそりした指は低温を感じさせた。
「寒くない?」
「うん」
真白が答える。頭と髪が揺れる。
雲は出ているが日も出ている。風もあるが真白が隣にいれば荒太には快晴も同然だった。
天気晴朗、風は真白の身体に障らない程度に強いくらいが良い。
平穏、静謐が続くのは退屈だ。
妻の焦げ茶色の髪がサラサラと躍るのを見るのも荒太は好きだった。
白い頬に線描が被さり、見つめる瞳が見え隠れする宝石じみて。
「俺、今日からずっといるから」
「うん」
「見張るからね」
「うん」
「移り気な花は、苛めてしまうからね」
真白はただ笑った。
口ほどに勝てるものではないと荒太も知っている。




