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マドンナ

マドンナ


 あれが雪の御方、と青鬼灯は改めて清楚な笑顔を思い返していた。感じが良かった。

 英語の講義は耳に入っていない。

 夏目漱石の『坊っちゃん』の英文和訳とだけ把握していれば十分。寒暖に強い青鬼灯ではあるが、なぜ文学部棟には暖房がまだ入らないのだろうと考える。恐らく新設されたピカピカの理系の学部棟内には入っている。

 前身が農学部を主体とする学校だったとは言え、差別は良くない。

 入学当時、今座るこの教室で、教授が笑いながら震度四の地震が来たらここは潰れるからね、と述べた時の記憶は、その教授の受け持った他のどの講義より鮮明である。

 解っていながら耐震化しない。なぜだ。

 経済的事情、と教室に集う誰しもが一言で断じるだろう。加えて上階にある先生方の蔵書の重みもまた潰れる一因ではないか、と気の利いた学生なら答えるかもしれない。

 いつの世にも象牙の塔につきまとう問題だ。『坊っちゃん』の和訳よりそちらの課題に教授陣らは専念してくれないものか、などと青鬼灯はつらつら考える。

 また雪の御方の笑顔が浮かぶ。

 授業内容はどうやら主人公が温泉で泳いで喜んでいるところに至ったらしい。

 莫迦じゃあるまいかと青鬼灯は思い、咲き競う華のようだった美女二人の内、どちらが自分のタイプであるか、と男ならではの考察をしてみた。

 三原市枝と成瀬真白はキャンパス内でも有名だ。マドンナAとマドンナBのような。

 華麗な社長令嬢と清楚可憐な五行歌人。

(…雪の御方に軍配)

 これは青鬼灯の嗜好である。或いは身近に赤花火のような苛烈な美女を知るからかもと頭の隅で思う。

(跳ねっ返りは一人で十分。…あ、愛姫様もおられた…)

 成瀬真白と親しい三原市枝が何者であるのか、青鬼灯は興味が湧いた。

 只者でない眼光だった。



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