遮断
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「真白!」
高い呼び声に、真白と長身の青年が同時に振り向いた。
金茶色の髪を銀杏にも負けず豪奢に靡かせ、凛として三原市枝が立っていた。
なぜ仁王立ちなの、と真白は思う。彼女に似合うポーズではあるが。
竜軌の前生における妹。佳人の誉れも高かった彼女は竜軌に似た傲然とした瞳で青山草吉、青鬼灯をついと見遣りすぐさま真白の左手を取った。
「行きましょう」
「え?待って市枝、授業が」
「休講よ。掲示板、見てないのね。メールも送ったのに」
「――――――ああ、焦って損した…あ、どうも、助かりましたっ」
ずんずんとフランス語の講義が行われる筈だった建物からも文学部棟からも勢いよく距離を開ける市枝に戸惑いながら、真白は姿が小さくなりつつあるレジュメの救世主に声を張り上げた。長身の彼は片手を上げて、気にするなと言うように応えてくれた。
足の下に感じていた銀杏の絨毯のふかふかした感触が消え、固くなった。
舗装された道を直に踏みながら市枝と共に歩む。
大きな樅の木の近くまで来て、市枝はスピードを緩めた。クリスマスには飾り立てられる樅の木側のベンチは、真白のお気に入りだ。押しくら饅頭どころか中身の餡がはみ出したような駐輪場と学食が近い。
「成瀬を迎えに行く前にお茶しましょ、真白。さっきのが伊達の忍びよ」
市枝が自然な物言いで告げると真白は微かに息を呑んだ。
「…わかんなかった。だって、全然それっぽくないって言うか」
「だからこそ、よ。兵庫みたいにいかにもなのばかりじゃないってこと。無臭にこそ気をつけろと成瀬から付け加えられた伝言」
口調はやや腹立たしげであった。
プライドの高い市枝は人に使われることを厭う。真白への忠告だからこそ動いたのだ。
「ありがとう、市枝」
真白が礼を言うと、大輪の牡丹のような女性は口元を緩め、艶やかな笑みを向けた。




