中間報告
中間報告
山尾をもとに兵庫を介して届いた報告に、荒太は好ましくないという表情をした。
だろうな、と兵庫は白いパジャマに空色のカーディガンを羽織り、病院の廊下の長椅子に腰掛けた主君を見る。自分は椅子に座らず、立ったままで報告する。前生ではひざまずいての報告が常だった。現代だから許される不遜かもしれない。
「伊達の乱破がうちの大学にいるのか」
「ですね」
「………」
荒太が顎の下を触る。彼は余り髭が伸びない体質で、そのことを本人は気に入っている。
「真白様にお知らせしたが良くないですか。どう接触してしまうやら。遭遇するやら判りませんし」
「名前は」
「青山草吉。二十二歳。大学四年。通称〝青〟。忍びとしての通り名はまだ不明です」
「笑える名前。俺や江藤と同学か」
「ですね」
「特徴は」
「背が高い。公や剣護様より高そうですよ。山尾曰く、〝塗り壁〟。と、あと山尾曰く、〝口が悪い〟。これは主観が多分に混じってると思われるので、スル―して良いでしょう。他、目立った点が見受けられない。―――――臭いが無さ過ぎる、とのことでした」
荒太の目が無機質な病院の天井を向き、口角が釣り上がる。
「それは臭い」
「はい」
臭いを消そうとしてしまうのは、忍びの身に着いた習性だ。
無臭たらんとして、むしろその無臭さが際立つ。
皮肉な話だが笑えた他人事でないことは、荒太も兵庫も承知していた。
容姿においてある程度目立つのは止むを得ないとして、兵庫はオードトワレに寄りつきもしないし荒太は消臭スプレーを常備している。
折しも病院という場所で、二人共に同病相憐れむの念を青山草吉に対して抱いた。
「解った。真白さんには俺が伝えておく。…月曜、退院する時に迎えに来てくれるんだ」
荒太の顔がはにかむように少しばかり笑んだ。
その顔に兵庫も、胸中で笑みを浮かべた。
「困らせちゃいけませんよ」
「彼女の困った顔も寂しげで綺麗で俺は好きなんだ。困ったことに」
「困ったがきですね」
「お前は昔から真白さんが絡むとやきもきするよな」
「それは俺が大人であなたががきだからですよ」
主従の遣り取りは和やかだった。




