地獄の隣人
地獄の隣人
美羽は竜軌に羽交い絞めにされ、胡蝶の間の畳に横たわっていた。
探検団が新規加入メンバーを歓迎する宴を解散させたあと、部屋に戻ると竜軌の腕が待ち構えたように伸びて「…蝶々、」と言ったきり今の状態が続いている。
自分が一人楽しんでいる間に寂しい思いをさせたと、美羽は申し訳なく思った。
「美羽」
竜軌はそれだけ言って、依然として美羽を離さない。これは、美羽には少し嬉しい。大きな竜がきゅーん、きゅーん、と甘えるようで可愛くて愛おしい。夜、竜軌と愛し合えないことは、実はそれを言い出した美羽にも辛かったのだ。情欲は男だけのものではない。
竜軌が美羽の肌を恋うように、美羽とて竜軌の肌を恋う。
「りゅうき……」
熱っぽく、切なく呼ぶ。
「そういう声を聴かせながら、抱くなと言う。お前は鬼だ。鬼蝶々め」
「りゅうき」
美羽のほうからくちづけ、ゆっくり、ゆっくりと竜軌の唇から唇を離す。離すと忌々しくも空気がすぐに滑り込むのだ。
(―――――邪魔、入って来ないでよ)
感じ合う吐息と吐息が地獄だった。目前の極楽に触れられない地獄。
竜軌は束縛した蝶を見る。
美羽が着るカシミア六分袖の発色の良いピンクのニット。
その下の黒いシャツブラウス。
赤と黒のタータンチェックのスカートも、それら良品、全部が邪魔だと竜軌は思った。
身一つあれば良い。熱。体温。時折上がる声ともつかない声が聴ければそれで。
容易く。
容易く囚われ捕らえ絡み合う。
大概、欲しいものは揃っているのに、至高の蝶だけひらりと遠い。




