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アンモナイトはどこ?

アンモナイトはどこ?


 浴室を清掃する係である山岡はその任を果たさせてもらえず、孝彰に泣きついた。

「山岡さんを困らせるのはやめなさい、竜軌」

「別に今すぐ洗う必要は無いだろうが」

「人にはそれぞれ都合やスケジュールというものがある。それを妨害してはいけない」

 竜軌は渋面で、大理石の浴槽のある浴室に続く脱衣所のドアの前に立ち塞がっていた。

 孝彰もまた、渋面であった。作りと表情を合わせ、似たような顔をした父子で押問答をしている。

「面倒臭い時に面倒臭い奴が通りかかるな、タイミングの悪い」

「美羽さんが中にいるのか」

 竜軌は答えなかったがそれが答えたも同然となる。

「大理石の中にアンモナイトの化石を探しているらしくてな」

 自分でも空々しいと思いながら無表情に語る。

 孝彰が情けない、という顔になった。

「そこまで莫迦な言い逃れをする息子に成り下がったなどと失望させないでくれ」

「すれば良い。あんたの自由だ」

「駄々をこねる年でもあるまいに。山岡さん、構わない。どうぞ入って」

 脱衣所や浴室などの鍵の束を手に持った猫背の中年男性が、竜軌の顔を後ろめたそうに窺う。

「はあ…」

「親父が死んだらこの家の次の主は誰だっけかな、山岡さん」

「竜軌!」

 父の叱声も、竜軌には晩秋の風ほどにも堪えるものではない。

「うるさい。俺があとで洗っておけば文句ないだろう。…山岡さん、手順やコツ、注意点を教えてくれ」

 孝彰と山岡が同時に目を大きくする。

「………人の仕事を奪ってはならないよ」

「自分の仕事を人に伝授するのは倍、手間がかかる。十二分に山岡さんには骨折りだ。立派な労働だ。そうだろう、山岡さん?」

「は、…はあ」

 孝彰はもう何も言わず、遣る方無し、という体でかぶりを振った。



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