相互理解
相互理解
両手で掴んでいて温くなった缶のコーラをちびちびと口に含みながら、佳世は気になっていることを美羽とその左右に尋ねてみた。
「合い言葉でトカゲは解るんですけど、りゅうきって何ですか?」
「うききき」
「美羽様、悪い男などと言ってはなりません」
美羽が猿のような奇声を発したあと、坊丸が窘めるのだが佳世にはまず、この遣り取りからして謎であり意味不明だ。なぜこうもミスター・レインはマダム・バタフライとツーカーの仲なのか。恋人同士にも見えない。雰囲気に甘ったるさが皆無だ。
そう考えていると。
「あら、私には悪党って聴こえたわ」
ホワイト・レディが言う。
「俺にはヤクザと聴こえたぞ!」
ランスロットが言う。
探検団の先輩たちには何となく通じているらしくてびっくりする。慣れれば解って来るものなのだろうか。慣れたくないようにも思う。
「りゅうきって言うのはね、プチ・フラワー。ここの家、新庄さんちの息子さんのことで美羽さんの恋人なの。新庄竜軌さん」
ホワイト・レディがにこやかに説明し、やや赤い顔で美羽がメモ帳に竜軌のフルネームと似顔絵を描いて見せた。目つきの悪い、黒髪。赤い色は無かったものの、佳世にはそれが、脱衣所に入る前、廊下に立って自分たちを眺めていた男だと判った。シンプルな線で描かれたイラストだが、美羽には絵心があるらしい。特徴を上手く捉えている。
佳世は気付かれないようランスロットに視線を遣る。
「竜軌様は上様なのだ、プチ・フラワー」
嬉しそうに語る表情からは、負の感情が見出せない。平気なのだろうか。
きっとランスロットは、マダム・バタフライのことも「上様」のことも好きなのだろう。ほんのり、しんみりしてしまった。
「ささ、プチ・フラワー、バジリコミートをどうぞ。えびマヨベーコンもまだ残っておりますぞ」
ミスター・レインが気遣うようにお皿を勧めて来る。
佳世の目の前に置かれたピザはハーフ&ハーフで味、具材の種類が分かれている。
もう一枚あったLサイズのピザは既にランスロットとミスター・レインの腹の中だ。
大理石の硬い冷たさを横座りした脚に感じながら、佳世はエビアボガドも一切れ食べたかったな、と思った。




