拾い得た
拾い得た
剣護は部屋のベッドに転がって天井を見ていた。
真白が眠ったベッドだ。
妹の体温がまだ残っている気がして、布団カバーに顔を摺り寄せる。
(ちょっと変態チック…)
自分で思ってから誰もいない部屋の中、呼びかける。一人芝居のように。
「なあなあ、新庄。メールじゃ伝えにくい話があんだけどさあ、これ聴いてたら電話してよ。俺からあんたにかけたら通話料がかかっちゃうからさ」
部屋は静まり返っている。
他人が見ていたら正気を疑うだろうが、竜軌と付き合う内にこんな奇行にも慣れてしまった。
「多分、おたく的には耳寄り情報だよ」
言い添えて待ってみる。
手元に置いていた携帯が鳴った。
正直だよね、と剣護はそれを耳に当てる。
『話とは何だ、哀れん坊将軍。相変わらず金欠か』
「あんたが俺と同じ電話会社にしてくれりゃあ良いんだよ。哀れん坊将軍って?」
『言葉通りだ。俺がお前に合わせてやる理由が無い』
「俺、口説かれたんだけどさあ、」
『哀れん坊イメージを払拭したいのか』
「それがちょっと変わったおねーさんだったのよ」
竜軌の憎まれ口を無視して続ける。天邪鬼の代名詞のような男の言葉を一々まともに取り上げていてはきりが無い。
『どのように』
声調が変化する。
遊ぶのをやめたな、と剣護は判断した。
「伊達っち仲間かもかも?でも確証は無いぞ」
『だがそう感じた。その、根拠は』
答えは単純明快だった。剣護は勿体振ることもなくあっさり答えた。焦らすのは主義ではない。
「何か兵庫たちと似てたんだ。…上手く言えないんだが。あえて言うなら、空気が」
空気。
曖昧で稀薄で、だがその人格を象るに欠かせず雄弁なもの。
『哀れん坊の汚名返上だと褒めておく』
そらどうも、と剣護は返した。
もっと素直にありがとう、って言えば良いのにと思いながら。
(でも実現しちゃったら不気味…こわ)
鳥肌が立つ前に両腕をさすってしまった。




