白黒真白、藍と緑
白黒真白、藍と緑
真白が泣く理由は言わずもがなだった。
だから荒太は黙って彼女の頬の涙を拭った。濃紺に白い肢体がほう、と浮き出て。これより美しいものはない。真白は刺すようではなくやわやわとした明るさを放つ。
(天女が泣いてる)
雫を光らせ、静かに。神話の一場面のようだ。
布団の一枚くらいあれば良いのにと思う。羽毛が詰め込まれた肌触りの良い麻のカバーで真白を包んでやりたい。一緒に包まれたいとも思うし、生まれ落ちたままの姿の真白を見ていたいとも思う。無粋な布などで隠さず。
動きを受け、細くたおやかな腕が荒太の背中を彷徨う。
(苦しんでるね、真白さん)
ひどい男たちなんだろうか、と自分と剣護を思い浮かべる。
愛をぶつける一方は楽と言えば楽だ。こんなに愛していると主張し、見返りなど要らない顔をしながら本音では欲している。羊の皮を被って、害する気持ちなど寸毫も持たないとどこ吹く風の様子で。
嘘っぱちだ。
愛される女は責め苦のように項垂れているのに。
ごめんなさいと言われれば、良いんだよと笑う。
愛する男はそれで済む。
選び切れない彼女が悪者になる。悪い女と後ろ指さされる。
潔癖で高潔な人を藍色の風は貶めているのだ。
緑の目の太陽も、同じ穴のムジナ。
白雪は荒太が触れるとくちづけると溶けるのでなく桃色に染まる。
今夜、真白は声を出さない。吐息を洩らすだけ。
吐息を洩らす。熱い、湿るような。
疼く。
突き上げるように凶暴な気持ちが湧いて声を聴きたくなる。悲鳴のように高い声を。
懇願を聴いて聴いて聴いて満足したら、許さないと笑って苛める。
愛に勝る者の権利とのたまって。
(真白さんが悪いんだよって言う)
悪い男。
だが荒太は愛情の善し悪しのボーダーラインが解らない。




