せつせつ
せつせつ
荒太は意表を突かれた。真白の結界の基本色は白、または青紫なのに。
目の前にはどこまでも濃紺が広がっている。深い苦悩のような。引き裂かれる痛みのような。
真白の言霊に応じ、振り向くと荒太はここにいた。
真白も立っていた。丁度、先日渡りかけた三途の川幅と同じくらいの距離が二人の間にはある。ユーモラスな記憶を荒太は思い出してしまった。
荒太と同じ白いパジャマ姿を、サラサラした焦げ茶色の髪が彩っている。
どちらも、先を争うように駆け出した。互いに向かって。
荒太はやはり筋力の衰えを感じずにはいられなかったが、懸命に足を動かした。空腹も響いている。転ぶような見っともない姿だけは晒せないと思った。
やっと華奢な手首を掴む。この、感触。折れてしまいそうで心細くなるような。引き寄せるのと、真白が身体をぶつけてくるのは同時だった。
「…――――――真白さん―…」
真白は言葉も無く荒太に縋りついた。
言葉を超えた体温に餓えていた。
荒太は恋しい焦げ茶色の香りを嗅ぐ。地に落ちると、焦げ茶色は扇のように広がった。
お揃いのパジャマで良かったと荒太は思う。夫婦だ。
お揃いのパジャマを着てお揃いに肌を見せる。結界内に寒風が吹かなくて幸いだ。真白に風邪を引かせる心配が減る。
白を脱がせると更に真白い色が荒太を温かく待つ。
雪白が香り立つ。




