強い甘い好き
強い甘い好き
串に刺さったつくねに剣護は喰いついた。
この何とも言えない甘い、けれど甘過ぎない味の染み具合。
堪能しながら葡萄カルピスの酎ハイをぐびりと飲む。
美味い。旨い。
情報屋を兼ねながらの経営の割に、この居酒屋は味にも妥協していない。懐が寂しくなると解っていながらついつい、通ってしまうのはそのせいだ。
「幸せそうに飲み食いするねえ、あんた」
カウンターの隣に座る女が感心しているのか呆れているのか、その両方かもしれない口調で剣護に話しかける。
「幸せだもん」
「ちょっとやだ、その語尾。デカい図体で好い歳して、キモいわよ」
容赦ない毒舌だが、さらっ、と軽く言われるせいか余り堪えない。
赤と金のピアスを光らせるショートカットの女は、首に豹柄のロングストールをぐるり、と一巻きして両端を同じ長さに垂らしているが、ターコイズブルーのニットは五分袖で、剣護の目には寒く映る。
お洒落は我慢、と呪文のように唱える女性の一族なのだろうと推測した。考え方はそれぞれと思うが、真白がこの時期に室内であっても五分袖を着ていたら、もっと厚着しろと剣護はうるさく言ってしまうだろう。
この女はこの間、剣護が店に来た時もいて、隣に座って来た。
江戸っ子気質と言うか気風が良く話していて面白いので、剣護も付き合っている。
「お姉さんは酒も喋りも辛いのが好きだね」
剣護が女の持つグラスを見ながら言う。辛口で知られる焼酎のストレート。しかもアルコール度数は焼酎の中でも高い。
「甘いのは好きじゃないの。男も、女も、お酒もね」
女が剣護を流し目で見て、にやりと笑う。
化粧の映える別嬪さんだね、と剣護は思う。
「そりゃ残念。俺、甘いからなあ。お菓子とかも大好きだし」
「甘くても、強い男なら考えるわ」
「俺、妹よりよええしなあ」
「妹、強いの?」
「最強」
「あんたの愛情ランキングでも?」
剣護が女の顔を見た。目を瞬かせ、自分はそんなに解りやすい男だろうか、と考える。それとも女の直感とやらが恐ろしいだけの話か。
「ふうん、悲しい恋、してんだねえ」
女の赤い唇がグラスを傾ける。
葡萄カルピスの酎ハイを飲んで、剣護は笑う。
「俺、可哀そうじゃないよ、お姉さん」
女の目は却って哀れむように細まる。
「悲しいっつってんの。可哀そうは弱いけど、悲しいなら美しいも強いもあり」
「美しくも、そう強くもないけれど。お姉さんほどには」
「何よりの褒め言葉だわ。良い男に褒められるのは嬉しいわね。あたし、はな、って言うの。緑の瞳のお兄さん、あんたは?」
「俺、門倉剣護」
「強い響きだ。そういうの、好きよ」




