語らないとは語らない
語らないとは語らない
一芯は部屋のドアを閉めた。
鈍い暗色の二段になった飾り棚には、気に入ったオブジェ、未使用の靴やサボテンなどが並べてある。部屋の色調は全体的に抑え、壁にはヴィンテージ加工の皮のジャケットなどがハンガーで掛けられている。雑貨店経営の両親の美的感覚によって育てられた結果、こうなった。天上から下がるランプシェードは透明なガラスと黒い線だけで鋭角に、シンプルに作られた物だ。元は父が仕入れて来た商品だが、一芯が気に入ったので譲ってもらった。
「暖房をつけておいてくれてありがとう。青鬼灯。僕はこれから着替えるから部屋を出て」
一芯が感謝と命令を口にすると、少しして一芯のベッドの下から青年がするりと這い出た。這い出ながらにして水の流れるように立つ。身ごなしに一分の隙も無い。
「変質者じゃないんだから」
「忍びの性と申しましょうか」
悪びれていない。青鬼灯は身長が一芯よりだいぶ高いので、見上げて話さなければならない。ずっと話すと肩が凝るので長話はしたくないが、青鬼灯が来たということは報告すべき事項があるのだ。
「嵐下七忍、動いております」
「だろうね」
「我らの存在も遠からず知れましょう」
「知れるまでは良い。動きを掴まれるな。出来るか?」
「七忍相手に難題を仰る」
台詞の割に喜色が窺える声だ。心躍る相手ということだろう。
「赤花火は」
「接触に成功」
「化かし合いか。気の長い話だ」
「門前に猫、おりましたか?」
青鬼灯の質問の意図を一芯は捉え損ねた。
「…いたがどうした」
「いえ、別段何も」
そう言って青鬼灯は、天井のランプシェードを眩しそうに見上げた。




