表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
422/663

キャラメルでいい

キャラメルでいい


 寒い中、ローズマリーが青紫の小花を健気につけている。

 独特の芳香を放つこのハーブは料理にも多用され、滋養強壮効果もある。両親が家を空けている間、これら家の敷地に生える草木の世話は一芯の仕事だ。それは建前で、怠けがちな一芯を見るに見かねて薫子が水遣りなどしに来てくれる。有り難いことだ。そのお礼に、料理に使いたい時は勝手に好きなだけ取って行くよう言ってある。

 薫子は料理だけでなく、ガラスの花瓶に挿して観賞用にも使っているらしい。

 料理に使うとしか言わないところが可愛い。

 黒っぽい銀色の、真鍮のプレートに佐原、と彫られた斜め下にはローマ字で同じ名がある。ミルクチョコレート色の煉瓦の外壁で囲まれた家の、玄関の門柱足元にも小さな花壇が設けられ、そこにローズマリーの小花を見ると我が家に帰ったなと一芯は思うのだ。場所が場所だけに犬にマーキングされている可能性もあるので、薫子には持って行くのなら内側の庭に生えるローズマリーにするよう勧めてある。

 燭台のように細い真鍮で構成された、冷たく硬い門扉を握ると視線を感じた。

 グレーの毛並みの大きな猫が行儀良く座り、金色の目で一芯を見ている。

 目が合うと、みゃあと鳴いた。

 だみ声の猫だなと思う。

 動物は嫌いではないが煮干しなどの持ち合わせは無い。

「………お腹空いてる?」

 物は試しと訊いてみる。

 たちまち猫の金色の目が爛、と光り、力強くみゃおおう、と鳴いた。犬のように尻尾を振る。変わった猫だが愛嬌はある。

「ごめん。今、キャラメルくらいしかなくてさ」

 一芯が思わず詫びると猫は媚びるように摺り寄って来た。

「ダメだよ。喉に詰まらせるよ。猫踊りはしたくないだろう?」

 そう声をかけると猫は無念そうな表情になり、とぼとぼ離れ、また元の場所に座り込んだ。

 随分と人間じみた猫だなと思いながら、一芯は門扉を開け中に入った。


「猫踊りなんてするもんか…」


 一芯の姿が見えなくなってから、山尾は尻尾を揺らしながらぽそりとこぼした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ