頂の男
頂の男
「ぼんちゃんは年上が好きか?」
蘭が美羽を連れて早々に帰ったあと、まだ個室に居座っていた一芯に力丸が尋ねた。
「好きだね」
「ガールフレンドはおらんのか」
「いるけど。南ちゃんが」
「隣に住む幼馴染愛らしガールが!?」
力丸が色めき立つ。
「うん」
そこで頷く時、一芯の顔は春風だった。
「何だと、男のロマンではないか。こらぼんちゃん、と呼ばれて怒られたりしているのか。いいなあ」
「いや、しょっちゅう怒られてるけど呼び捨てられてるよ」
「梵天丸?」
「じゃなくて、一芯って」
「強いな」
「強いね…」
一芯の声と顔にはしみじみしたものが滲み出ていた。自分でも恐妻家かもしれないと思ったことは、これまで一度や二度ではないのだ。
力丸は右目で一芯を見ている。
「ぼんちゃんは、天下を獲りたいのか」
一芯は左目で力丸を見ている。
「獲りたくないよ?獲れもしないだろう。現代社会の日本で、その発想は御伽噺だ。独裁政権が敷ける地盤はとうに消えている。今更、専制君主なんて存在を誰が認める?尤も恐怖政治に対する危機感は、若い世代に行くほど薄れつつあるようだけどね。でも、頂点の男には興味がある。僕も男だから」
「例えばヤンキー学校のてっぺん、とかでは満足せんのだな」
「お山の大将になりたい訳じゃないんだよ、りっきー」
「ぼんちゃんの、深い胸の内の問題ということか。俺にはよく解らんが、ちょっと繊細な感じなんだな」
一芯は微笑む。力丸の、ひねりのない直截な物言いと独特の勘の良さを、彼は好ましいと感じていた。友人と思うのは嘘ではない。あっけらかんとしただけの、本物の阿呆なら初めから相手になどしない。
「上様は、強いし頭いーし、かっちょいーぞ」
濁りのない、真っ直ぐな瞳が一芯を射抜く。双眼でなくとも、十分に力を有している。
「惚れてるね、りっきー」
こうまで力丸が竜軌に入れ込んでいなければ、自分側について欲しかったものをと一芯は惜しむ。
「うん。だけど俺は、出来ればぼんちゃんとは戦いたくないぞ」
一芯がふ、と吐息のような笑みをこぼす。
「隻眼に慣れ、いっぱしに戦えるようになってから言いなよ。背負ったハンデを楽観視しないほうが良い。…次は死ぬよ」
経験則に基づいた忠告に力丸は素直に顎を引く。
「そうする」




