青匂わせる少年
青匂わせる少年
美羽はその夕方、蘭に付き添われて力丸を見舞った。
個室の戸をノックして「りゅうき!」と呼びかけると、室内から「トカゲ!」と答える元気な声があった。力丸の声が元気でなかった例しはない。最も似つかわしくない場所に彼は長期滞在している。
戸を開けると先客がいた。
青い詰襟の学生服を着た眼鏡の少年。フレームの無い眼鏡をかけた面立ちはいかにも賢そうだ。
(…隻眼)
右目が傷に塞がれている。力丸とは逆だ。
美羽の胸に生じた傷ましさを表情から感じ取ったのか、彼はごく気さくな笑みを浮かべた。
「美羽様、いらせられませ!ついでに成利兄上も!」
ベッドに身を起こした力丸がマイペースににこにこ笑う。
「力丸」
蘭が兄の顔で弟を呼ぶ。
「はい!」
「兄への敬意まで猿並みになるのはやめなさい」
枕元に並ぶぬいぐるみの中でも、数において圧倒的優勢を占めるおさるさんを眺めながら蘭が力丸に注意した。
力丸が訳の解らないといった顔になる。
「俺に尻尾はありませぬぞ。顔も尻も赤くないし」
「うんもう良い。……お客人か?」
す、と蘭は視線を青い学ランを着た少年に移す。入室した時から既に注意は注いでいた。
「はい、フィギュアをくれたぼんちゃんです!」
蘭が容貌から推測した少年の素性を、力丸の言葉が裏付けた。
成る程、竜軌の言う通り薄っぺらい笑顔に潜む、鋭利な個性。
年端も行かない少年の姿に見え隠れするのは屹立とした男の影。
些少の観察眼を働かせれば紛う方なき武士と知れる。
「それはありがとう。弟とは仲良くしてくれているようだね」
蘭もまた、「弟の友人」向けの笑顔を作る。
年長者としての穏やかな口調を心がけた。
「いえ、りっきーと話すのは楽しいので、僕も知り合えて嬉しいです。共通の話題で盛り上がることも出来ますし。美羽さん、ですか。どうも初めまして、佐原一芯と言います」
はきはきと喋った少年が、蘭ではなく自分に名乗ったので美羽は面食らった。
「あ、ぼんちゃん、美羽様はだな、」
「りゅうきとしか発音出来ない。知ってます」
力丸に答えながら一芯は飽くまで美羽の目を見て頷く。
「それでだな、上様のだな、」
「ご正室。所謂、御方様だね」
「ぼんちゃんは物知りだなあ」
「そうでもないよ」
「あるある、油断ならん男だ」
からりと笑って指摘する、力丸の言葉は真実だと蘭も内心で同意する。
「これを機会に仲良くしていただけますか、美羽さん」
一芯が笑う。
美羽は青い色が視界を横切った気がした。颯爽と冷たい青。
なぜだろう。外見にどこも似たところは無いのに。
この少年は竜軌を思わせるものがある。通じる、孤高の匂い。
〝よろしくね。ぼんちゃん君〟
美羽はメモ帳を差し出した。




