シークレット・ガーデン
シークレット・ガーデン
「持つべきは賢妻だな」
花はまだ遠い臥龍梅の枝を撮っていた竜軌が呟いた。
新庄邸の敷地内、美羽が以前も竜軌と来た場所だ。
今日は曇り気味の天気で風もそのぶん冷たい。
臥龍梅は名前に龍がつく梅だと教えられ、それなら竜軌の仲間だと嬉しくなったのを美羽は覚えている。
竜軌はまだ靴を履いて外を歩くことが出来ない。甲の傷口を靴が圧迫するのだ。
だから仕方なく、邸内の庭をサンダル履きで歩いている。
〝賢妻?何の話?〟
「お前のことだ」
美羽が照れたように顔をほころばせると、竜軌が少し罪悪感を覚えるような顔をした。
「…俺はお前に色々と隠していることがある…」
〝まだ浮気してるの〟
「いや、今はしてない」
今は、の三文字が美羽の癇に障る。しゃら、と言いやがってと腹立たしい。
「浮気なんぞは可愛いもんだ。一番大きな隠し事は、他所に洩れると致命的と言えるほどでな。逆手に取って悪企みされると厄介だし」
〝公儀隠密だった?FBIだった?インターポール?〟
「公儀隠密に通じると言えば通じるような。お前は知っても決して他言はすまいが、知れば知ったで身が危険に晒される可能性もあるからな」
難しい顔をする竜軌の、くすんだような青と緑が混じったダウンジャケットに、前からぼふ、と身体をぶつける。
不意を突かれた竜軌が引いた左足で踏ん張ろうとして、傷の痛みによろけ、すんでで何とか止まる。
「…ご容赦を。マダム・バタフライ」
美羽が慌てて腕の中でわたわたしている。
傷のことを忘れて、やらかしてしまった。
「りゅうき」
〝ごめん、ごめんなさい〟
「良いよ。うっかりだろ。でもちょっと色々して良いか?」
色々って、と訊き返す前に、タートルネックの襟をめくられ首を吸われる。
「ここなら痣が残っても良いだろ?この季節なら目立つまい」
否も応もない。刻まれてしまったあとでは。
次は上唇と下唇をやんわり噛まれた。
舌で顔のあちこちにそっと触れる。
(これから、欲しいの我慢しなきゃいけないから)
こういう風にもしたがるのだと美羽は察した。
だからいつまでもいつまでも、唇をねぶるように貪り喰らわれても、竜の成すがままにさせていた。
美羽も望まない訳ではなかったから。
秘密はいらないキスをちょうだい。




