イフ、
イフ、
竜軌は自室で一人、紫煙を吹かしていた。
強い顔をしていた、と先程の美羽を思い返す。
強い光を目に湛えて、愛すればこその言葉を言う。
(賢いな)
人の幸せの何たるかを知っている。
世を成すのが砂糖だけではないことも。
辛酸を舐めたからだろう。
(舐めさせたくはなかったが、だからこそ今のお前がある)
美羽が平穏な生い立ちを持ち得たならば、もっと頭の軽い人間でも竜軌は構わなかった。
世の過酷を知る為に美羽が払った代償は大き過ぎた。
そうは思うものの、かと言って今の美羽でない美羽を自分は愛せたかと考えると、竜軌にも確たる自信は無い。
(所詮、〝もしも〟などという思考は非生産的だ。無意味だ)
今、この時この瞬間以外を人は持たないのだから。
煙が昇る。
焦りなど知らぬ風情で天へ。
胡蝶の間で夜を過ごすようになってから寝煙草をしなくなった。
自分の部屋の畳に点々とある焦げ跡も、だから胡蝶の間には無い。
〝賭けとかはダメよ〟
おやおやと思った。
(そういう訳にはいかんのだ、美羽)
既に自分と父親の間には、そうした習慣が根付いている。人同士に培われた、癖というものの歴史は容易には消せない。
美羽は消そうとしている。
無駄な努力、と侮るにはひたむきに過ぎる。
そして一見、無駄と取れる蟻の行動が実は大きな穴を壁に穿つこともある。
莫迦にする人間こそを竜軌は軽蔑する。
(……抱けんのか。今晩から?ついうっかりクリスマスまでなどと、甘っちょろい譲歩をしてしまった)
畜生、と後悔していた。




