知らざりし
知らざりし
翌朝、車の後部座席で孝彰は物思いに耽っていた。
数日前までは車内から見られた街路樹の南京黄櫨の赤い葉も、風と時に散らされ消えつつある。独特の形をした実のほうが目立って来た。
女に現を抜かす男は同じ男に同調されながらも嗤われ社会からは信用されない。
大義を全うしようと生きる男にとって、女は人生の優しい添え物であればそれで良い。
のめり込む対象としてはならないのだ。
それが新庄孝彰の本音だった。
女性は労わり慮り尊ぶべきものではあるが、生き様への侵害を許すのは愚かだ。
だが愚かではない、それどころか孝彰の知る男の中で最も賢明と言って差し支えない息子は、侵害を許すどころか生き様の中枢に女性を据えようとしている。
孝彰には理解出来なかった。
〝あんたには解るまい〟
竜軌の言葉は正しい。
美羽は好ましい少女ではある。
やや行動的過ぎるが、人としての美点を多く備えていて竜軌が惹かれたのも頷ける。
優しい添え物として扱うだけならば結構だ。
しかし竜軌はメインと言って憚らない。
(解らないよ。竜軌。お前の無様な姿など見たくもないんだ)
賭けの期限は遠くない。
恐らくは美羽の為にまた手傷を負って、竜軌に勝算などあるのだろうか。
そう思う一方、勝算のない賭けを申し出る男ではないとも考える。
竜軌の黒々とした瞳は、親から見ても底知れないものがあった。
幼いころから余りに超然とした子供だったので、甘い柔い、丸くて温かいような欠片を与え忘れてしまった気はする。必要だとも思えなかったのだ。
コーヒーに砂糖は要るかと尋ねたら必ず顔をしかめる男。
そうしたイメージが、孝彰の中では強かった。
そのようなものと割り切っていた。
割り切って構えていたら、竜軌が美羽を連れて来た。
ブラックコーヒーに砂糖を入れると。
欲しいとは知らなかった。
(今更)
ならば幼少時から然るべき親の愛を注いだものを。
今、息子が道を過とうとしているのは、自分が思い違いをしていたせいなのだろうか。




