罪びとは誰だったか
罪びとは誰だったか
短い毛が身を包んでいる。温かくて重い。
顎下まできっちり守られている。
ベッドの中にいるのにパジャマを着た時特有の解放感は無い。
なぜパジャマに着替えていないのだろうと真白は眠りも半ばだった頭に疑問を持つ。
それで剣護の部屋にいたことを思い出した。
酒に弱くはないがつい油断した。
顔を左に向ければ電気を消した暗闇に、壁にもたれ胡坐と腕を組んで眠る剣護がいる。
暖房がつけっぱなしだ。
真白の為だろう。
ベッドを譲り、惜しみなく暖房をオンにしたままにして自分は床で寝る。
剣護はいつも同じで、譲り、惜しみなく与える。
笑って。
笑って真白を愛している。
柔らかい麻のジーンズとレギンスに保護された脚をベッドからフローリングに降ろす。重ね履きした靴下は地の冷えたことを知らせない。
羽毛の掛布団の下から毛布をうんと引き摺り出して、剣護の身体にかける。
身体にかける手前で涙が込み上げた。
寝てしまった自分を、剣護はずっと慎重な距離を挟んで見ていたのだ。
真白の大好きな緑の瞳でただ見つめて、触れることなく。
(十二歳の、月の夜みたいに)
眠る自分にキスすることはもうしない。
剣護は自分を恥じていた。あの時、剣護が部屋を出て行く乱れた足音が耳に聴こえた。真白は唇に朧に残る感触から従兄弟が自分に何をしたかを悟った。
嬉しかった。
お日様のように笑う大好きな、初恋の男の子。
いつも真白を真綿でくるむように大事にしてくれる剣護に、女の子として想われているのだと思うと少女の世界などそれだけで幸せの水は溢れんばかり。
だがその後、剣護は二度と、真白に女の子にするような愛情表現をしようとはしなかった。ひどく自制しているようだった。彼は当時の真白の目から見てもそのあたり、実に禁欲的だった。時々、剣護のいる前で眠った振りを装いながら何もして来ない彼に、何度、焦れったいと思ったことか。
そして。真白も唇を罪に染めた。
奪われたものを密やかに盗み返したのはその年の冬の晩。
また熱を出して寝込んでいた真白の布団に上半身を預け、寝ていた剣護の唇に、ついばむように。
少女という生き物のずるさを真白が自覚した晩だった。
「剣護」
呼んでも起きない。大きくゆったりした身体は安らぎ、あの冬の晩と同じように寝息は健やかだ。
けれどあの時のようについばむことは、真白にはもう出来ない。
「剣護」
せめて名を呼ぶ。声に愛しさを潜ませて。名を呼んでいるだけだと口先で言い訳して、誰かに罪を軽くしてもらえるように。
自分と同じ焦げ茶色の癖っ毛に触れる。
「………にいさま…」




