いつまでも
いつまでも
剣護に合わせてかなりの酒量を飲み、真白は静かな寝息を立てて壁にもたれていた。
剣護といると不安も何も忘れて真白が安心してしまう傾向があるのは、子供のころからのことだった。
妹が寝たのを見て剣護は白い二つの盃を拾い上げ、キッチンの流しに置いて部屋に戻る。
部屋に戻ると、眠る真白。今まで何度、彼女の寝顔を見て来たことか。
病弱な真白が寝込むと、看病するのは主に剣護の役目だった。
真白の母が多忙なせいもあったが、剣護が進んでそうしたがったのだ。
弱った真白に頼られ、剣護は大好きな従兄妹を独占する。
ごめんね、と小さく囁く真白を謝るなと叱りながら、内心では幸福に浸っていた罪深い自分。真白は無心に、隣家に住む従兄弟をただ信頼して慕っていた。
無邪気で無邪気で可愛くて。
いずれ荒太に取られると知っていたから辛かった。
真白は剣護に庇護されていると感じていたのだろうが、陽だまりのような少女に守られていたのは自分のほうだった。
剣護はベッドシーツに散るお菓子の屑を払い落とし、ガムテープをペタペタと貼っては剥がして細かなごみまで回収し、枕をパンパンとはたく。
それから真白の身体を起こさないように抱え上げ、ベッドに横たえて毛布と布団を掛けた。
肩が出て冷えたりしないよう、掛布団はきっちり顎の下まで伸ばす。
作業が終わるとベッドの向かいに片膝を立てて座った。両手を、立てた右膝の上に重ねて置く。
眠る最愛の女性を眺める。
手を伸ばさない。触れない。緑の目で抱き締めるように見るだけ。
真白が十二の歳になって間もない、月の満ちそうな晩だった。
熱を出して寝込んだ真白を、剣護はいつものように看病していた。
いつものように詫びる真白を偉そうに叱ったりした。
眠る少女の熱を持った唇は赤い。
赤い実。
全く無意識に剣護は動いていた。
我に帰れば柔らかくて甘くて、真白にくちづけていた。
卑怯な盗人となった少年は、部屋から逃げ出した。
満ちそうな月が悪かったのだ。月光に唆されたのだ。
そんな言い訳を自分の中でしながら、罪悪感からしばらく真白の目を正面から見られなかった。
時効の見えない窃盗の罪を告白するつもりは今もない。
(ごめんよ)
まだ愛している。
苦しめると解っているのに。優しい妹が自責の念に駆られていると知りながら、別の女性を選ぶことも出来ず傍にいる。
幸福であってくれればそれだけで良いと言う横で、どうしても欲しいのも剣護の真実。
行き場のない想いが苦しくて痛い。
真白が笑えば嬉しくて痛い。




