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定義を
定義を
〝竜軌の手は大きくてゴツゴツしてる〟
その文字を読んだ竜軌は、そうだなと言った。
それから、目の前に座る美羽の頭にこつんと自分の頭をぶつけた。
美羽の鼓動が早まる。
身を引こうとすると後頭部を柔らかく押さえられた。
顔が近い、と思う。
通った鼻筋が目の前にある。
竜軌は満足した顔で微笑んでいる。
大きくて、力のある大人の男の人が、こんな些細なことで寛いだ顔を見せる。
美羽を優しい目で見て、優しい声で語りかける。
〝私、あなたに何かしてあげられる?〟
竜軌は口元を緩めた。
「渇きを癒した。美羽。お前が潤してくれた」
〝何もしてないわ〟
「俺の前で生きている」
〝それくらいのこと〟
黒い双眸は美羽を真剣に見つめた。
「奇跡とは、往々にしてそういうものだ」
ただ目の前で、生きているだけ。




