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城が落ちる

城が落ちる


 籠絡されつつあった。

 竜の甘い誘いは余りにも巧みで夢の国への逃亡さえ阻まれる。

 身体に触れる刺激に美羽は唇を結んで耐えていた。その唇にさえ熱が落ちる。

 つい開くと焼けた鉄のような舌先が攻め込んで来る。攻撃は絶え間ない。

(手練手管ばっかり知ってる、この助兵衛。竜軌のあほんだら)

 名前はもう呼べない。竜が勢いづくばかりだから。

 紙一重で美羽の意思を尊重しているつもりか、無理に浴衣を脱がせようとはしない。

 布を挟んでの刺激でも竜軌は存分に戦えるのだ。

(そこが歴戦の猛者ってどんだけの女ったらしよ)

 腹が立ち、泣きたい思いになるとすかさずまなじりにチュ、と唇をつけて来る。

 フォローも抜かりない。ますます腹が立つ。

「美羽、美羽」

 声で慰撫する。それで伝わると竜軌は考えている。安穏と。

(呼ばないでよ)

 張り詰めた身体から力が抜けてしまう。防御を解けばあえなく陥落するしかない。

「りゅ、」

 自分が呼びそうになり危うくとどまるが、一音で竜軌は元気づいて攻撃の手を強めた。

 足の痛みはどうなっているのだ。

 目先の欲求しか頭にない。男は莫迦だとしか思えない。

 洩れ出た美羽の弱々しい声。

 蝶のはためくほどの音を、竜軌は了承の意と捉えたようだった。

 すぐさま浴衣の赤い帯に太い指がかかる。赤がしゅる、と鳴る。

「りゅうき……」

 降参するから暴れないで、鎮まって。

 傷が悪化しないように、それだけは忘れないで。

 美羽はそれらの想いを名を呼ぶ声に籠めた。


 傷など竜はとっくに忘れている。



挿絵(By みてみん)



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