審美眼
審美眼
撮影場所は新庄邸の庭だった。
思えば自然を題材にした写真を撮るのには打ってつけの場所だ。
その割に竜軌は外に出ての撮影を好んでいたと美羽は思う。
(箱庭だからかしら)
広大だけれど小さいと知っているから、敬遠しがちだったと考えれば納得が行く。
上質な麻素材の藍色のコートは温かい。暗い紅に金の留め具がアクセントになった乗馬ブーツは履いていて安定感がある。ロングブーツは持たないと言った美羽に竜軌が靴屋で買ってくれた物だ。値段は教えてくれなかった。
水を撮るのかしら、と思う。
竜軌のカメラは頭上のもう散り際さえ過ぎそうな紅葉ではなく、下に向いている。
苔に出現した一メートルには満たないほどの湧き水。
これもまた、庭の造作の妙の一つだろうか。
澄んだ水には赤い葉が泳いでいる。
苔の緑に揺らぐ透明、よぎる赤。黄色。
ワールドワイドで物事を考えられる身体のたくましい男が、小さく低く、ささやかなものに視点を向ける不思議を美羽は思う。
自分とは正反対だからだろうか。
揺れる水面も。散り、泳ぐしかない無力も。
(でも、竜軌が私を選んだのは、だからじゃない。そんな甘い人じゃないもの)
例え美羽が小さく低くささやかでも、それは自信と誇りを持って言える。
(あの竜は見る目があるの)
美しいものとは何たるかを知っている。
同じくらい、醜いものとは何たるかを知っているから。
清水に浮く赤。




