妹
妹
「自分をおぞましいと思わんのか、お前」
真白が荒太に頼まれていた夕飯の買い物に出るや否や、竜軌からの罵声が飛んだ。
「ん~~~。んにゃ、あんまり?昔はこれでもだいぶん悩んだんだがな」
剣護はすぐに何の話か察したようで、そう返した。
「開き直ったという訳か」
「俺は真白が幸せならいんだよ」
軽蔑したような竜軌の声に、春風のように穏やかな顔が答える。
「にしてもあんた、妙にこの件にこだわるね。昔、何かあったのか?」
ふ、と記憶が蘇る。
信長、
信長、
私は穢れている。
穢れているのだ、信長。
そう言って、腕の中で泣く蝶を抱き締めた。
蝶を悲痛に泣かせた者の正体を、信長は知った。
殺意を抱くことに躊躇いは無かった。
解っている。
剣護と義龍は違う。
帰蝶はほんの幼いころから、先を期待される美貌の持ち主だった。
それが彼女に災いとなった。
義龍は妹の幸福など望まなかった。義龍は邪恋を妹に強いた。
年端も行かない妹を力で押さえつけた。
獣にも劣る蛮行に何度も身を晒され、帰蝶は壊れる寸前だった。
私は穢れているのだ、信長。
あの苦しげな泣き声が、耳について離れない。
今もどこかで、彼女が泣いている気がしてならない。
早く見つけ出してやらねばと思うのに。
泣き声さえも、聴こえない。