可愛い
可愛い
美羽が着たワンピースの丈は短く、立てば白い美脚がすらりと出る。
蘭が好む小悪魔系がしそうな格好だと竜軌は考えながら、今は畳まれている美羽の脚に視線を釘づけにしていた。これから寒い外に出て撮影をするので、上からコートを羽織らせたりロングブーツを履かせる必要性を感じるが、美脚が拝めなくなるのはいかにも惜しい。
(黒いストッキングも悪くないが、素足には勝てん)
正座した美羽が両手で持ったマグカップにふう、ふう、と息を吹きかけながら無心に、少しずつココアを口に含む様子は見ていて愛らしい。
竜軌は撮影に行く身支度を終えて、右手で頬杖を突いてそれを眺めていた。
「…お前」
竜軌が声を出すと美羽が「ん?」という顔でカップから顔を上げた。
黒い目がつぶらだ。
「可愛い。莫迦みたいに。莫迦だが」
喧嘩を売られたと取るべきか否か、美羽は悩む。
怒るところのような、喜び照れるところのような。
ぐるぐる悩んだ末、マグカップを竜軌に無言で差し出した。
「………」
蘇芳のテーブルの向かいに座って、美羽を待っていた竜軌がそれを見る。
「りゅうき」
「飲むかって訊いてるのか?」
美羽は頷いた。まだ少し悩んでいるので、顔は怒り気味だ。怒り気味でありながら、うっすら赤い。
「莫迦可愛い」
竜軌はマグカップを掴む美羽の両手の上から自分の両手を被せて、こくこくこく、と残っていたココアを飲み干した。蘇芳のテーブルは大きいので、飲む時は背中を伸ばした。空になったマグカップは、機嫌を直したらしい美羽が蘇芳の対岸から引き取ることにより、竜軌から離れる。若手作家の作らしい有田焼のカップは、ごく薄い水色に、金のラインがコーティングされていて美羽のお気に入りだ。
この邸の中で美羽のお気に入りが増えるのは、竜軌が歓迎すべき事態だ。
しかし蝶より分け与えられた恵みはやたら甘くてもったりして、竜軌の好む味ではなかった。




