竜好み
竜好み
桐の箪笥を漁る。
美麗で高そうな服が多いが、重要なのはそこではない。
(竜軌が見てときめくような服。脱がせたくなるような服。…じゃない、それじゃ着る意味が無いわ。えーと、えーと)
痺れを切らしたような声が後ろからかかる。
「まだか。早く脱がせろ」
デリカシーが無い男だと腹が立つ。誰の為に頭を悩ませていると考えているのだ。
(解ってる、何も考えてないのよね。愛してるだけだって知ってるわよ)
だから普段着の洋服選びすら大変になる。
どの色が良いか。どの形が良いか。扇情的とはどれを言うのだ。
焦るほどに決められなくなる。
急に、背中にのしかかる体温。変な声が出るかと思った。
「グズ」
熱い。重い。選ぶ手を固まらせてどうする。体重を乗せて腕を首に絡みつかせて来る大きな竜に何とか言ってやりたい。頭を四方八方に大きく動かして髪を振り乱しても、竜軌は微動だにしない。ますます寄り掛かって来る。これでは潰れてしまう。
ぺしゃんこになる。
「りゅうきっ」
「早く呼べよ」
重力攻撃が緩む。
構って欲しかったらしい。
(甘えん坊。甘えん坊の竜)
憤慨し、そして嬉しくなる自分が悔しい。
「服を着ないという選択肢も、いてっ。拳で殴るな」
いけないと思いながら振り向き体温に抱きつく。
「りゅうき、」
「何だお前、甘えん坊だな。…待て、殴るなって」
「りゅうき、」
ぎゅう、としがみつく。突き放されないことは心の底から承知している。ずるい計算など平気で働かせる。意図しなくても声は熱を帯びるから。
「脱がせろということかな?美羽」
美羽がどれほど欲深いのかを知らずに竜軌は笑う。
もっとたくさん残らずよこせ。




