夢の胡蝶か
夢の胡蝶か
竜軌は竜軌で、美羽の話を知りたがった。
胡蝶の間に足を運んで、子供のように美羽の物語をねだった。
その中でも、傷口には触れまいとする気遣いは感じられた。
美羽が宝物の入った銀色の缶を開けて見せると、興味深そうにそれを覗き込む。
こんな物を、と嘲笑ったりはせず、真面目な顔で見入る。
そして首をひねり、女子供の好む物はよく解らんと言う。
竜軌は子供のころ、よく蓑虫の蓑を引っ剥がしていたと語った。
彼らしい話のような気もしたが、蓑虫には気の毒だと美羽は思った。
衣服と家を兼ねた蓑を奪われ、寒かっただろう。
その思いが美羽の顔に出ていたのか、今はもうしていない、と竜軌はつけ加えた。
それから、施設で親しかった星君の話をすると、急に不機嫌になった。
膝枕をしろと言い張るので、なぜそうなるんだろうと思いながらもしてあげると、機嫌は直った。やはり美羽は、虎の頭を膝に乗せている心境だった。
時々、じゃれるように髪の毛を軽く引っ張られた。
将来の目途は?と訊くので、解らないけど、と言葉を濁す。
もう一度、追及された時は観念して、竜軌と離れたくないと正直に言った。
竜軌は星のようで虎のようでブラックダイヤのようだった。
輝きに魅了されれば、もう逃げられない。
では離れなければ良い、とあっさり言われた。
「お前がそう言うのなら、俺はお前を離さない」
起き上がった竜軌に抱き締められる。
こんな大事な時に声が出ない。
美羽はそのことが悲しかった。
思わず涙をこぼすと、ますます強く抱き締められた。
(竜軌。離さないで。離さないで)
約束したように名前を呼んで、私も好きだと告げたいのに。




