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得られずに壊れた人

得られずに壊れた人


 お可哀そうな兄上。

 父上も、兄上の美しいお母上も、あなたを愛しはしなかった。

 父上が、なぜあなたにああも冷淡であられたのか、私にも解らない。

 或いは父上は兄上を、お母上の前夫との間の子と、お疑いであったのかもしれない。

 愛するがゆえに疑い、嫉妬し、憎まれたのかもしれない。

 お可哀そうな兄上。

 私はか弱く無力で、あなたを助けることは出来なかった。

 ささやかな、蛍のように小さな光を投げかけることしか出来なかった。

 とても足りぬ光であった。

 親に愛されぬ悲しみから、苦悩から兄上を救って差し上げるには。

 あなたは父上の愛に期待し、手を伸ばしては期待を裏切られて引っ込め、また期待して手を伸ばし、裏切られて引っ込めた。あなたは愛に飢えていたのに。度重なる失望で、あなたの心にどんどん、亀裂が走って何の不思議があるだろう。

 そうして、あなたの心がすり減ると共に、伸ばす手の回数も少しずつ減り、とうとう、あなたは手を伸ばすことすらしなくなった。

 乾いてしまったのだ。

 愛情を求める心の潤沢が、干上がってしまったのだ。

 あなたには、虚無と狂気が残された。

 そしてあなたに残された術は、他ならぬあなたご自身を傷めつけることだった。

 お可哀そうな兄上。

 私を愛していながら、私を愛するあなたの心は壊れた。



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