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遠い遠い遠い
遠い遠い遠い
「されどお前は、ここで散れ」
散らしてやろう、一気呵成に。
全て忘れて後世にゆけ。
〝何ゆえ人はとかく、散るを愛でるのであろうかの〟
自らの言葉に触発され、竜軌は遠い春に聴いた声を思い出した。
生きるに難そうな男の声を。
「……ただ散るは、無念ではあろうがな」
その台詞を聴いた秀比呂が、奇妙な、竜軌を探るような顔になった。
〝花も葉も、ただただ散るは無念であろう〟
秀比呂は遠い春に聴いた声を思い出した。
「武将には向かぬ気立てがお前に災いしたのだ。義龍」
〝武将などには向かぬ気立てだ〟
桜の花が、散っていた。
遠い遠い遠い春、言葉を交わした明朗な若者と竜軌は似たことを言う。
「参る」
竜軌の声は秀比呂に終わりだと告げていた。
龍に躍りかかる竜の姿を、美羽の目は捉えた。




