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オセロ

オセロ


(賢明さには欠けたが)

 脇を狙うが六王はかするにとどまる。

(あまりにも深く愛した男だったと)

 鬼雲が竜軌の頬を深く抉る。遠く美羽の悲鳴が聴こえる。

(容易に嫉妬に駆られはしないが)

 六王の柄を掴まれそうになり、振り払う。

(…前後の見境がつかなくなり…)

 六王を旋回させる。先端の狙いは秀比呂の首あたり。

(…貴重な真珠を自らの手で投げ捨てた男だったと)

 かわされる。それほど期待はしていなかった。威嚇行為だ。

(…その目は決して涙もろくはなかったが、)

 脚を狙い六王を二度、三度、出しては退き退いては出し。

(…このたびばかりは……)

 下から刃が切り上げられ六王の柄に迫る。

(…樹液がしたたり落ちるようにとめどなく涙を流したと)

 柄を両断しようという目論見を、させじとくるりと六王を時計回りに回転させ、左上方から秀比呂の首に柄を振り下ろしてぶつける。秀比呂が歯を食い縛ったのが、ひび割れて崩壊しそうな表情からでも判った。

 間合いを取るのも、これで何度目か。

 戦う頭の端で、竜軌はなぜか『オセロー』の台詞を思い返していた。

 愛し過ぎて狂い、手にかけて絶望に泣いた愚かな男。

 認めたくはないが俺たちはオセロに似ていると、竜軌は秀比呂を見て考えていた。

(俺も投げ捨てるところだった。後悔して絶望するところだった。嫉妬に狂って傷つけた。何より、深く愛し過ぎた―――――――――)

 人間離れした秀比呂の姿に、自分の姿が重なる。

 美羽への愛、嫉妬、逆上、怒り。

(だが、俺は絶望に泣いてはいない。お前は)

 泣いたんじゃないのか、と心の内で問う。

 帰蝶を狂気のまま犯して、聡明で繊細な男が、平然としていられたとは思えない。

 夜具に横たわる、変わり果てた妹の姿を目にして、己の所業に愕然として涙を落とさずにいられなかっただろう。数刻前まで自分を無邪気に慕い、輝いていた澄んだまなこが、鈍く虚ろに壊れたのを見て震えただろう。

 そしてそれを記憶の彼方に追い遣り、事実を脚色した。

 そうでもしなければ生きていられなかった。

「美羽の影響かな。我ながら…、まさかお前を、哀れと思う日が来るとは思わなかった」

 竜軌は伏し目がちに、笑いを洩らした。息を吐くように。



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