赤鬼
赤鬼
(…綺麗……)
目が見えず、美羽の声のみを頼りに戦う坊丸の動きは、美しかった。
二刀流による剣の舞い。
真白の次に美しく戦う人間が、坊丸と江藤怜だと。
怜は見たことがないので判らないが、坊丸に関しては竜軌が語っていた通りだ。
揺れ動く雨の線のような。消えては現れ、敵を翻弄する煙のような。
雨煙という神器の名称そのままの身のこなし、太刀捌きだ。
「りゅうき!りゅうき!」
美羽は必死に声を張り上げ続けた。
闇の中での戦闘訓練などしたことが無いだろうに、坊丸は美羽の声に従い忠実に動き、秀比呂と戦い続けた。
(よくやる…)
秀比呂は感嘆していた。赤くて美しい鬼と戦っているようだった。
坊丸の顔面は事実、瞼から流れた血で真紅だったのだ。
(長氏の時より、鮮やかな紅だ。広い紅だ)
だが傷は力丸より浅いと冷静に読み取っている。そうでなければ、ここまで戦い抜けられはしない。理屈はよく解らないが、美羽の叫びをヒントに坊丸が動けているらしいことは、ここまで来て秀比呂にも呑み込めた。かと言って美羽を害することも出来ない。
左右の腕を二本の刀が同時にかすめ、ひやりとする。
また、間合いを測る。
持久戦は、お互いに好ましくない展開だ。
(早く殺さねば。この男、前生で長生きしておればどうなったことやら)
宮本武蔵のように、並ぶ者の無い剣豪と呼ばれたかもしれない。
鬼雲を右斜めやや上方に構える。
(天の構えと行きたいが、二刀流に対しては不利。八双で決する)
次でどちらかが生き、死ぬと坊丸も秀比呂も悟っていた。
しかし。
「オン・マユラキ・ランデイソワカ」
空気が、低い美声と共に軽くなる。凝りが薄まる。
「りゅうき!!」
空から竜が降って来た。
前述、『日本呪術全書』より引用。




