表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
371/663

笑止

笑止


 男たちが戦うのを、ただ後ろで見ているしか出来ないという立場の、何と歯痒いことか。

 美羽はこれまで竜軌の、坊丸の、力丸の、兵庫の背中を見て来た。

 そして真白の華奢な背中も。

 儚げな真白の後ろ姿が美羽の前に立った時、凛然とした美しさに打たれた。

 男たちより強くて美しい。

 ずるいと思うくらいに羨ましかった。彼女と接していると、時折、美羽は劣等感を刺激されたが、真白はいつも美羽に優しく、守ろうとひたむきだった。

(坊丸、―――――――)

 ギン、キイィンと剣戟が続いている。

 あんなに刀を振り回して、どうしてどちらにも当たらないのだろう。

 美羽は硬く手を組んでいたが、何を祈ろうとしているのか、自分でも解らなかった。

(坊丸が勝てば、向こうが、死ぬ)

 それを願うのは恐ろしいことと思えた。

 だが坊丸が傷つくのは、死ぬのは、もっと恐ろしい。

(怖い。怖いことばっかり。嫌だ。助けて竜軌)

 美羽が竜軌を胸に呼んだ時、空気にピ、と赤が走った。

(え、)

 瞬息の間、坊丸が一気に後退する。美羽のすぐ前まで。

 刀を構えた姿勢に乱れは無いが、流れた血は坊丸のものだと判った。

 それまでより息が荒くなっている。

(怪我した。どこを、いやだ、坊丸、)

 竜軌を一番愛しているが、美羽は坊丸も大事で大好きだ。真白も、力丸も蘭も、新庄家の人たちも傷つく姿は見たくない。

「りゅうきっ、」

「…両の瞼を、少々かすりましてございます」

 どこを怪我したかと尋ねた美羽に、坊丸が低く答えた。

 流血に邪魔され、双眼を閉じざるを得ない状態だった。

 自分の優勢を確信した秀比呂が、二人の遣り取りに妙な顔をする。

「――――――何も見えまい、長隆。弟は左目一つで済んだようだが。貴殿は両目、失くすか。いや、失明の闇を味わう前に永久に眠らせてやろう。それが慈悲と言うものだな。……もし帰蝶の前から大人しく退くと言うならば、見逃すが」

 目を閉じたまま、坊丸が嗤った。

「笑止」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ