笑止
笑止
男たちが戦うのを、ただ後ろで見ているしか出来ないという立場の、何と歯痒いことか。
美羽はこれまで竜軌の、坊丸の、力丸の、兵庫の背中を見て来た。
そして真白の華奢な背中も。
儚げな真白の後ろ姿が美羽の前に立った時、凛然とした美しさに打たれた。
男たちより強くて美しい。
ずるいと思うくらいに羨ましかった。彼女と接していると、時折、美羽は劣等感を刺激されたが、真白はいつも美羽に優しく、守ろうとひたむきだった。
(坊丸、―――――――)
ギン、キイィンと剣戟が続いている。
あんなに刀を振り回して、どうしてどちらにも当たらないのだろう。
美羽は硬く手を組んでいたが、何を祈ろうとしているのか、自分でも解らなかった。
(坊丸が勝てば、向こうが、死ぬ)
それを願うのは恐ろしいことと思えた。
だが坊丸が傷つくのは、死ぬのは、もっと恐ろしい。
(怖い。怖いことばっかり。嫌だ。助けて竜軌)
美羽が竜軌を胸に呼んだ時、空気にピ、と赤が走った。
(え、)
瞬息の間、坊丸が一気に後退する。美羽のすぐ前まで。
刀を構えた姿勢に乱れは無いが、流れた血は坊丸のものだと判った。
それまでより息が荒くなっている。
(怪我した。どこを、いやだ、坊丸、)
竜軌を一番愛しているが、美羽は坊丸も大事で大好きだ。真白も、力丸も蘭も、新庄家の人たちも傷つく姿は見たくない。
「りゅうきっ、」
「…両の瞼を、少々かすりましてございます」
どこを怪我したかと尋ねた美羽に、坊丸が低く答えた。
流血に邪魔され、双眼を閉じざるを得ない状態だった。
自分の優勢を確信した秀比呂が、二人の遣り取りに妙な顔をする。
「――――――何も見えまい、長隆。弟は左目一つで済んだようだが。貴殿は両目、失くすか。いや、失明の闇を味わう前に永久に眠らせてやろう。それが慈悲と言うものだな。……もし帰蝶の前から大人しく退くと言うならば、見逃すが」
目を閉じたまま、坊丸が嗤った。
「笑止」




