370/663
肩透かし
肩透かし
反則技だな、というのが竜軌の感想だった。
招かれた結界はフェイク。囮だった。まっさらに平坦で赤い空間が広がる。
がらんどうとしている。
微睡もうとした六王の柄を蹴って起こす。
「寝惚けるな。……ああ、起き通し。徹夜だな。それがどうした。肝心要の働きどころだろうが。…美羽も見てないのに?うるさい、あいつは別にいるんだ。……お前、もう一回、俺のことを間抜けと言ったらへし折ってやるからな」
六王は、出来るもんならやってみろと言ってから黙った。
神器を持つ存在はそれなりにいるが、自分の神器と正確に会話出来るのは「聴く」巫である竜軌だからこそだ。
(結界を、二つ。同時に拵える。真白でさえ出来るかどうか。命を捨てた妖術か)
狂気の極みでは秀比呂のほうが一歩、上を行っているようだ。
竜軌が美羽の愛を勝ち得ていなければ、或いは逆だったかもしれない。
(俺を捨て置いても美羽に行くか。なりふり構わずだな。しかし坊丸がいる)
長ずれば鬼武蔵と呼ばれた兄・森長可と並ぶ名高い武将となるであろうと称された男が、美羽を守っている。




