四歩と半で待っていた
四歩と半で待っていた
竜軌の撮影の区切りが良い時を待ち、二人でお弁当を食べた。
機嫌が良いな、と美羽は思う。
今日の竜軌はよく喋り、たまに笑う。
釣られたように美羽も笑う。笑い声は、出せないけれど。
こんな女の相手は退屈ではないだろうか、と不安にもなる。
竜軌は自分よりずっと大人の男性で、世知に長けて見える。
高校までの勉強しか修めていない美羽と違い、世の多くを知っているだろう。
かと思えば、竜軌は大学には行かなかったと言う。
理由は訊いても教えてくれなかった。探し物があったから、とだけ答えた。
それは何だろうと考え込もうとすると、右頬を引っ張られた。
詮索するなと言うことらしい。
人には言い辛い事情もある。
美羽は素直に頷いた。
「美羽。怖いことがあれば俺のところに来い」
唐突な台詞に瞬きする。
竜軌がそんな言葉をかける相手が、自分で良いのだろうか。
〝真白さんは?〟
「あれは俺が守る必要のない女だ。俺より強い上に誰やら彼やらがいる」
〝どうしてあなたは私を守るの〟
「それくらい自分で考えろ」
ざ、ざあ、と風が吹く。
緑が揺れる。
百合の木の、大きな葉と花が揺れる。
〝竜軌は私が好きなの?〟
葉陰が二人の頭上で躍る。
「ああ。好きだ」




