生きて帰る
生きて帰る
竜軌が動いた。
自分から離れる風を美羽は感じた。密着していた温もりが遠くなる。
咄嗟に手を伸ばすが届かない。
「りゅうき?」
竜軌は六王を掴み、襖まで行くと内鍵を外した。
「坊丸、入れ」
「は」
二つの声は、共に戦士のそれだった。
いくさするつわものの声。
「美羽を頼めるな?」
「命に代えましても」
美羽を置いて交わされる誓約。兄によく似た坊丸の美貌は引き締まっていた。探検団の会員番号ナンバー2、ミスター・レインはそこにはいない。
竜軌が離れてしまうと美羽は悟った。
離れて、戦場に赴くのだ。
美羽の知らない、手が出せない、遠いところで戦う。
「りゅうきっ」
竜軌は少し痛いような目をして美羽を見た。だが彼は迷わない。
「奴が。…お前の兄が、俺を呼んでいる。美羽。俺たちは決着をつけねばならん。お前に狂う者同士」
決着の果てに竜軌が死ねば、美羽も生きては行けないのに。
〝一緒に連れて行って〟
「…駄目だ」
「りゅうき!」
竜軌を呼ぶ言霊は続いている。美羽の隣後ろに控える坊丸を竜軌は見た。
坊丸は目顔で頷く。
「生きて帰るよ、美羽。待ってろ」
ふわ、と美羽の頭を撫でて、竜は消えた。




