派手迷惑の出陣
派手迷惑の出陣
王子様が立っている。
キラキラした顔のキラキラした王子様が美羽に照れたように微笑みかけながら立っている。
「いかがでしょうか、美羽様」
お見合いをするべく、一張羅の濃いグレーのスーツを着て、髪を丁寧に梳かし込んだ蘭が胡蝶の間に竜軌たちを訪ねて来た。仕立ての良いスーツだと美羽の目でも解る。極上のウールだ。ひょっとしてカシミアだろうか。ネクタイは若草色と紫色と、薄い茶色の線が行儀の良いチェック模様を織り成している。気のせいか良い匂いまでするような。
美羽は顔を赤らめてしまった。
〝とってもステキ、蘭!お見合い成功、間違いなしよ!!〟
「ありがとうございます」
王子様がはにかみながらキラキラと笑う。
(わー、キラキラ、わー、キラキラ、)
感心してしまった美羽がパチパチと手を叩く。
何と言うかすごい。これは成る程、隣を歩く同性から見れば「派手迷惑」な存在だろう。
こんな人に毎日、お給仕をさせて世話をしてもらっているのだ。
派手迷惑の無駄遣いだ。もっと有効な利用法はあるまいかと考え込んでしまう。蘭が探検団に入るくらい、ゆとりと遊び心のある大人であれば良かったのに。
(そしたらこの派手迷惑で、女性会員を釣り放題だわ……)
マダム・バタフライの頭があっちの可能性、こっちの可能性、と蘭の使い道について忙しく飛びついて回る。善良な大人は顔をしかめるであろう「悪用法」に思い巡らせている。
「不愉快だ。ものすごく不愉快だぞ俺は、美羽、こっちを向きなさい」
ほっぺたをむにゅ、と挟まれて振り向かされると唇に噛みつかれる。
人前でするんじゃない、と美羽は竜軌の顔面をぐいい――――っと押し遣った。
蘭はにこにこ知らんぷりしている。
どうせ見合いが上手く行ったところで砕巖と海岸デートで全ては終わるのだと竜軌は思い、腹立ちを紛らわせる。
「行って来い、蘭。お嬢さんの皮を被った小悪魔のハートを射抜いて来い。主命だ。香水きっついことを祈っといてやる」
「は!承知仕りました―――――――本当に、よろしいので?」
武士の瞳がついと上がり、竜軌に問う。
今、城の守りから離れて良いのかと。大事な蝶の盾の一枚と自負する身であるからこそ。
「許す。行け」
竜軌は傲岸に顎をしゃくった。
無用な温情をかける主君ではない。
蘭は拝礼し、胡蝶の間をあとにした。




