寄る辺ない心
寄る辺ない心
真白がまともな物を食べていないのではないか、と美羽は心配だった。
他のことならば何であれ完璧にこなす美羽の憧れの女性は、料理だけはからっきし、出来ないのだ。
料理担当の夫である荒太が入院して、きっと困っているに違いない。
「りゅうき」
〝真白さんちに、おさんどんしに行きたい。ダメ?〟
「ダメだな。心配しなくて良い。荒太がおらんでも兄貴共が真白にせっせとメシを作る」
剣護と、それから怜のことだろうか。
荒太が入院してから、竜軌は美羽と邸内に引き籠っている。
籠城という言葉が美羽の頭に浮かんだ。
〝戦いはね、攻めるほうが有利なの。主導権は攻撃側にあるというのが、戦いの基本的な原則…。守る為に攻めに転じるしかない時もあるし〟
真白が世間話のように語っていた。遠い目をして。
竜軌も蘭も剣護も。
前生を知る人たちは、遠い目をする時が多い。昔々に残して来た自分の心を見ているのだろうか。叶わなかった願いや、果たせなかった夢や幸せを。
そうしてこちらに目が戻り、美羽を見ると、微かに笑う。
ほんの束の間、親に存在を忘れられた小さな子供になった気分に、美羽は陥るのだ。
寄る辺ない心に。
全てを思い出せば美羽も、遠い目をする仲間入りが出来るのだろうか。




