絶食中
絶食中
そして木曜日。
熱が下がった真白は、取る物もとりあえず荒太が入院する病院に駆けつけた。
「荒太君」
「真白さん!」
「荒太君…、」
「真白さんっ」
「こうたく、」
「おい、兄ちゃんら、うるせえぞ」
夫婦の感動の再会に、相部屋の男から文句が出る。
「個室でVIP待遇を受けられない我が身が憎いっ!!新庄家の人々めっ」
聴かなかった、聴こえなかった、と荒太が真白の身を抱く。
ぐう~ぅ、という音。
「荒太君」
「―――――――違うよ。今のは真白さんが欲しくて空腹だったという意味で、」
ぐ、ぐぐるるきゅきゅううう。
「荒太君、やっぱり絶食が辛いのね」
「兄ちゃん、まだ屁え出てないからなあ、お気の毒」
「うるさい黙れ真白さんの前で屁とか言うな!!」
ぐあ、と荒太が吼えて無精髭を生やした隣のベッドの男が口を噤む。
優男の若造、と荒太を侮っていた男が気圧されている。
猫を被り損ねた、と荒太が我に帰る。
「すみません、新婚で、愛妻なもので」
「あ、ああ、悪かったな」
猫を被り直して笑顔で謝る。まだ入院期間はあるのだ。波風は立たないでおくに越したことはない。真白が頭を軽く下げると、男の鼻の下が伸びる。
波風を立てても良いかもしれないと荒太は思った。
「銀鈴庵さんでおはぎを買って来たんだけど、ナースさんに見つかって怒られちゃって。御主人に食べ物を与えないでくださいって」
「真白さん………」
「何もしてあげられなくてごめんなさい」
「真白さん」
清楚な美女が俯く姿に隣のベッドの男の目が潤んでいる。案外、気の良い奴なのかもしれない。
「俺、大丈夫だよ真白さん。快気祝いのお御馳走は何が良い?」
明るく声をかけるが。
「…ご、ごめんなさい、私がお料理出来ないばっかりに、」
「わー泣かないで、何でも好きな物、作ってあげるから!」
隣のベッドの男が鼻をかんでいる。




