失えば死ぬ
失えば死ぬ
「糖尿病なのか、お前!?」
美羽はぶんぶんと首を横に振り、縦に振った。
(ちがうちがう、そう、そう、砂糖が、でも糖尿じゃない、)
「どっちなんだ、」
美羽は身を必死で離して空間を作り、竜軌をビシリと指差した。
〝砂糖!たっくさん!〟
「俺は砂糖じゃない、糖尿でもない」
〝ゲロ甘っ〟
「…解った、了解した。そういう意味か」
言いながらも竜軌は美羽を離そうとはしない。
美羽は竜軌の大きな体温にくるまれて、暖房もそれなりに効いた中で温かいが、浴衣一枚の竜軌は寒くないのだろうか。見ているほうが寒い。何か羽織れば良いのに。
〝どうしてそんなにでれんでれんのどろんどろんに愛してくれるの〟
「それは俺が俺でお前がお前で俺がお前にでれんでれんでどろんどろんだからだ。確かに糖尿病と言えるかもしれん」
ここで照れも恥じらいもせずに言い切ってしまえる男が竜軌だ。
「美羽。俺はこれでもそれなりに緊張しているんだ。蘭と坊丸を部屋の外に待機させてあるし、奴が手出し出来ないように結界も張ってあるが、相手は異形の妖怪だからな。どこまで効き目があるやら判らん。今は、奴にとって格好の機会なんだよ」
何の、と竜軌は言わなかった。言葉が進むにつれ声はどんどん低くなった。
口にしたくないことが声の響きで解る。
六王が一晩中、布団の横に置かれていたのも、つまりは敵襲を警戒していたということなのだろうか。
愛し合いながらも、奪われまいと構えていたのか。
(あんなに、愛されてると思ったのに)
策士の竜の頭は、美羽で一杯ではなかった。それは美羽を想うゆえのことではあるけれど。
「――――――…美羽、許せ。お前を確かに守り通せたと確信出来るまで、俺はただお前にだけ現を抜かすことは出来ん。…それでも十分に、ゲロ甘だろう?だから泣かないでくれ」
竜軌が一生懸命になっている。
困って優しい声を出して、美羽をあやそうとしている。
傲慢で誰よりプライドの高い、女ったらしが。
美羽は少し溜飲が下がった。竜軌の大きな手が、美羽の頬の涙を拭く手つきも気に入った。
「お前を離す訳にはいかないんだ」
戦う人の声だわ、と美羽は聞き惚れた。
弓弦を引き絞ったような、戦意に満ちた美しい音。




