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フェミニストの朝

フェミニストの朝


 夜が過ぎれば朝が来る。

 昨晩の時雨は永遠にやまないものかと思ったのに、今は朝の光が燦々と降り注いでいる。

 この病院の中にも。

 死ぬかと思った男が廊下を歩いている。

「…荒太様が歩いてるんだが。必死の形相で」

 問いともつかない兵庫の言葉に黒羽森が頷く。

「歩いておられるな。腸の癒着を避ける為だろう」

「そ。しぶといがき」

「安心したなら車のキーを遣せ」

 兵庫が黒いコートの男を見る。清潔に乾いていて快適そうで、自分の有り様とはだいぶ違う。

「何でだ、黒」

「お前はその足で受け付けに向かえ。ほら、お嬢さんたちが待ち兼ねた目でお前のことを見ているぞ」

「色男だから」

「明らかに病人だからだ。一晩雨に打たれて、風邪をひかないほどお前は莫迦なのか」

 道理で気分が悪い筈だ、と指摘されてから兵庫にも自覚が芽生える。

 ジーンズもコートもニットもTシャツも、下着まで全て濡れて水分を吸っているからというだけの理由で、身体を重く感じる訳ではないらしい。濡れたジーンズが固く皮膚に張りつくようで不快だ。

「昨日の時雨は容赦なかった…。一時も降りやまず」

 物憂く兵庫が言う。だるい。

 真白はこんな症状と頻繁に格闘しているのかと今更ながらに痛ましくなる。

 荒太を殴ったことは後悔していない。

「お前に優しくはなかったな。雨も男は選ばんらしい。残念だったな、兵庫。キーを遣せ。俺は直接、事務所に向かうから」

 兵庫は催促する黒羽森の大きな掌を見て、言葉に従わず口を開く。

「秘書のあゆみちゃんの話を聴いてやれ」

「何?……渡辺さんがどうかしたか」

「結婚詐欺に遭ったかもしれないと。相談に乗ってやれよ。親身にな」

 黒羽森が重く深い溜息を吐いた。

「どうしてお前に話すのだかな…」

 かぶりを振りながら嘆かわしそうに言う。

「色男で女性の味方。フェミニストには話したくなるのさ、黒」

「車の窓ガラスを割られたくなければキーを出すんだ」

「剣呑だぜ、弁護士先生」

 チャリ、と鍵が手から手へ渡った。



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