莫迦な子
莫迦な子
深夜、病院に駆けつけた荒太の両親は、もこもこに着膨れて長椅子に眠る真白を見て奇妙な目も咎める目もしなかった。むしろ同情する眼差しを息子の嫁に向けた。
「すいません、こいつ風邪ひいてる癖に興奮して泣き止まなかったんで。薬飲ませて、眠らせました」
剣護が頭を下げる。
息子に似て優しげに整った顔立ちをした荒太の母は、首を横に振った。
「正解よ、剣護さん。私でも多分、同じことしてるわ。真白さんは身体が弱いのに、……………荒太の為なら無理も無茶もする人だから。莫迦な子。彼女を泣かせて」
荒太の母は強張った顔のまま言い切ると、目に涙を滲ませた。それから額に右手を当てた。
「――――――――助かったのね、あの子」
「はい。術後、目を覚ましてからちょっと話したけど、また眠りました」
ぽつりと落ちた独白のような言葉に剣護が答える。
「………携帯で、友人から相談事をずっと聴いてて。それから、お風呂に。主人はまだ会社にいて、二人共、連絡に気付くのが遅れたの。面倒をかけてごめんなさい。ここまで、お世話させてしまって。本当に」
「いえ」
「よりによって。よりによってこんな時に。荒太が莫迦なら親も莫迦だわ」
「母さん」
荒太の父が穏やかに妻を呼ぶ。彼はまだスーツにコートを羽織った姿だ。荒太の母も藤色のコートを着たままで、夫婦揃って暖房の効いた屋内にいることを自覚していないような格好だった。
剣護は自分の両親を思い出して彼らの心境を思い遣り、しんみりした。
(真白ももちろんだけどさ。親も泣かせんな、荒太)
言えた身ではないと知りつつ、そう思わずにいられなかった。




