そうだよね
そうだよね
説明する医師も自分の発言に懐疑的な表情を隠せずにいた。
急性虫垂炎が化膿性腹膜炎に進行。
しかし突発的過ぎる。
今の今まで何の兆候も見られず、自覚症状すら無かったのはおかしい。
極めて稀な症例と言える。
ともかく全力を尽くすが、手術中には予期せぬことも起こり得ると真白を窺うように見て、最後を締め括った。
偶然。
極めて稀に、突発的に。
呪術のスペシャリストが倒れる。
降って湧いたようなこの展開を僥倖と捉えるのは誰であるか。
(否)
ラッキー、アンラッキー、そのいずれでもない。
取るに足らないクイズだと怜は思う。
(狙いが寸分たがわないな。朝林…)
見事だと感心してやりたくなる。
拍手を送ってから、神器・虎封の刃で喉を刺し貫いてやりたくなる。
真白の隣に座る剣護が、壁に寄り掛からず端整に立つ弟を見た。
「おっかない顔してるぞ、次郎」
「そうかな、そうでもないよ」
怜は微笑む。
「ほら、おっかない。お前、ポーカーフェイスが際立ってる時が一番、怖いよ。七並べしてる時もそうだったもん。アンテナが朝林の妖術だって報せてんのか?やっぱり、あいつか?」
怜はストレートな兄に対して微笑みを崩さない。
「太郎兄は表情豊か過ぎて、逆に読めなくなる時がある。俺が教えるまでもなく、ちゃっかり正解に辿り着いてるし。俺に言わせればそっちのほうが、ずっと油断出来なくておっかないよ」
「おっかなくて当たり前だよ。俺、怒ってるもん」
真白は剣護にしがみつき、ぼう、として、焦げ茶色の髪はくしゃくしゃに乱れている。剣護が涙の跡を拭いてやっても拭いてやっても、いつの間にかまた彼女の頬には雫がゆっくりと流れているのだ。
「そうだよね」
妹を眺め遣り、当たり前だよね、と怜は頷いた。




