恵み憂う
恵み憂う
荒太が運び込まれた病院前のアスファルトに、彼らは佇んでいた。黒い地面が雨を弾き、白っぽい色が足元に満ちている。
「信長公といい、死にそうにない奴ばかりが病院に行ってる。はた迷惑な話だ」
傘を差した黒羽森は兵庫に目を向けた。
そこに批判の色は無い。
「お前にしては上手くない喋りだ。自分を責めているのか?」
兵庫は形ばかりくわえていた煙草を落とし、踏みにじった。
「別に。俺に落ち度は無い」
「そうだ。お前以外はそう思っている。俺を含め。いつまで雨の中にいるつもりだ」
「水も滴る男なもんで」
黒羽森は重い息を吐く。
「上手くないな」
「―――――――荒太様に万一のことがあれば俺は真白様に詫びなくちゃな」
「同胞の誼だ。一応、どうやってかと訊いてやる」
濡れそぼった兵庫の茶髪の間から、怜悧な目が光る。
「腹、掻っ捌いて?」
声はおどけるように剽軽だった。
「甘えるな。逃げるな」
黒羽森が叱咤する。
「莫迦でない男が莫迦なことを口走るのを聴くと気分が悪くなる」
「手厳しいのか、お優しいのか。弁護士先生は」
「真白様は失うことに耐えられないお方だ。兵庫。お前であっても」
「……本能寺か?いつまで引き摺ってらっしゃるのやらな」
「内心、喜びながらそう嘯く。弱っていなければ殴るところだ」
「良いぞ?殴れば」
「生憎と、お前の思う壺になってやるほど優しくないのでな」
罵りながら黒羽森は濡れる兵庫と共に病院の前に立ち続けた。
天つ水は容赦なく男たちに恵む。




