表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/663

君泣くと

君泣くと


 チェーンに遮られ、ドアはすぐには開かなかった。

 剣護は思い切りドアノブを引いたので、ガン、とチェーンが激しい音を立てた。

 剣護の右手に震動が伝わる。

「…荒太君、荒太君、こ、…」

 遠く、真白の泣く声が、背後から聴こえる雨音と重なる。

「真白っ。チェーンを外してくれ!」

 剣護が叫ぶと真白の声が途切れ、乱れた気配が寄って来てドアが開いた。

「けんご、じろ、あに、…っ、」

 パジャマ姿の真白の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 剣護は真白の肩を抱いて中に踏み込んだ。怜も素早く続く。

「荒太っ!」

 中は暖房がよく効いていた。駆けつけた身には汗ばむくらいだった。

 荒太は身体をくの字に折り曲げてリビングに倒れていた。

 アラベスク模様が織り込まれた、彼お気に入りの生成り色のカーペットの上。

 額に脂汗を浮かべて腹部を押さえ、歯を食い縛る様子は明らかに非常事態を示していた。

 妻とは異なり頑健そのものの荒太は、どんなに忙殺されようがけろりとしている男だ。

 入院経験こそあるものの、高校を卒業して以来、これまで病院とは最も無縁の存在だった。

「救急車は」

 剣護が真白に尋ねる。

「呼んだ、でも、」

「原因は?」

「わからない、ごはん作る匂い、ふつうにしてて、なのに、急に、急に、ドサって、音がして、来たら、」

「解った。もう良いぞ、しろ。大丈夫だ。兄ちゃんたちがいるからな」

 剣護は真白の頭を手早く撫でた。

 怜は屈み込んで眉をひそめ、荒太の容態を窺っている。

 原因が解らない、と言うように剣護に向けて首を傾げて見せた。

「――――――しろさん、ましろさん――――」

 目をきつく閉じたまま、食い縛った荒太の歯の隙間から声が洩れ出る。

「荒太君っ」

 真白が夫の身体に取り縋る。

「…だいじょぶだから、なくな、」

 やっとのことでかけられた言葉に反して、真白の目からは次々に雨が降る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ