私の優しい竜
私の優しい竜
竜軌が風呂に行く、と言う。
一緒においでと言われて、美羽は頷く。
言われなくても、ついて行く。
バスタオルは譲れなかったけれど、浴槽の中で、竜軌の身体にこすりついて甘えた。
竜軌は鬱陶しがらずに笑って頭や顔を撫でてくれた。
「美羽。美羽。じっとしなさい」
優しい声で叱られたくて、わざと髪を洗われる最中に動く。
「しょうのない奴」
愛していると同じ声音で言う竜軌はしょうのない奴と美羽も思う。
キスしてくれないの?と振り向いて目で誘う。
「しょうのない奴」
同じ言葉を同じ声音で言い、竜軌は応じてくれた。
風呂から上がり、夕食の前に美羽は信長のフィギュアと坊丸お手製の信玄の木彫フィギュアの前にご飯をお供えし、お線香を上げ、鉦をチーンと鳴らして手を合わせる。
「…なあ、美羽。それはちょっと違うんじゃないか?そいつらは、お前のご先祖でもないし」
竜軌が納得行かないという顔で口を出して来る。
〝竜軌と言えど口出し無用!クールでイカした相手には敬意を払うのが私の流儀なの〟
メモ帳を読んだ竜軌は複雑そうな表情になる。
「なら、信長のフィギュアだけ拝めば?」
〝信玄も、クール〟
「そりゃ禿げ頭はクールで涼しいだろうが」
〝私の信ちゃんを茶化すな〟
「お前のほうが茶化してる気がするんだが。…ああ、はいはい、もう何も言いません。早く食卓につきなさい」
そして始まった夕食はいつも通りだったが、途中から竜軌の様子がおかしくなった。




