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温かな

温かな


 美羽と竜軌は夕暮れの公園にいた。

 滑り台の上に竜軌は大きな身体を押し込め、美羽を懐に抱えて風除けになっていた。

 手にはカメラがある。

「りゅうき」

 美羽が、そう、と名を呼ぶ。自分の中にある感情が壊れないように。

「何だ?」 

 竜軌がカメラから美羽に視線を移す。

〝どうして、さっきは、優しくしてくれたの〟

「俺は優しい男だから。……白けた目で見るんじゃない」

〝だって、乱暴者の癖に。意地悪の癖に〟

 けれど大人で、美羽に惚れ抜いていることだけは美羽も認める。

 竜軌はシャッター音を一回鳴らしたあと、茜の空を仰いだ。

「ごめん」

 烏の声と、近くの小学校の校庭にまだ居残っているらしい子供の甲高い声が聴こえた。

 それらに紛れ危うく美羽は聞き逃すところだった。

 背中の竜軌を振り向く。黒い目が、今は柔らかに美羽を見ていた。

「嫉妬に怒り、乱暴にした。…傷つけてすまなかった。謝らないと言ったのは、撤回する」

 赤い色を含んだ黒髪がサラリと下を向いた。

「…………………嫌いになったか?…」

 小さくてか弱い声だった。

 ひどいいたずらを仕出かして親の反応に怯える子供のような。

 これまでで一番、竜軌のことをずるいと美羽は感じた。

 悔しいが言わずにはいられなかった。

「…りゅうき、……い、すき」

「――――伊助?」

 竜軌が険しい顔を上げたので、美羽はつい彼の頭を拳で殴ってしまった。

「…ってえ。加減を覚えろこの莫迦、」

〝バカはそっちだ!大好きって言おうとしたけど、上手く言えなかったの!〟

「……ああ、成る程な」

 美羽は赤い顔で竜軌を睨んでいた。

「気長に待ってるから練習してくれ。…とは言え、俺は美羽に関しては感情のコントロールが覚束なくてな。お前には、世界で一番、優しくしてやりたいと思うのに。……逆に。愛し過ぎて壊したくなるくらいな時もあるんだ。だからお前、俺がマジでやばそうな時は真白を頼って逃げろ。良いな?」

 美羽は竜軌をじっと見た。

 冷たい風から当然のように自分を守る男を眺めた。

 何もかも当然のように。

〝あなたがマジでやばそうな時は、私も一緒に壊れてあげるわ〟

 その時が来ても自分の選択を後悔しないだろうと美羽は思う。

 風に流れてサラサラ、と竜軌の黒髪が美羽の黒髪に混じって来る。

「美羽。キスして良いか?舌を入れても良いか?」

 いつもは訊かないのに、と美羽は思いながらも頷く。

 今に限って一々、許可を求める愛しい男に腹が立つ。

 風から守ってくれる竜軌の体温は温かくて心地好くて、頬は火照るように熱くなってしまった。竜軌のせいだと近付く真っ黒い瞳を睨んで、美羽は目を閉じた。



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