唇に罠
唇に罠
喰らわれるよりは喰らうことを美羽は選んだ。
襖に取り付けられた、美しい金色の掛金をかけるとその前に立ち塞がった。
「やめろ、美羽。撮影に行くぞ。早く弁当をつく」
可能な限り背を伸ばし、竜軌の口をべろ、と舐める。
(美味しいわ)
にっこり笑い黒い皮のジャケットをずるりと剥ぎ取ると、蘇芳の机に置いていたはさみを手に取り、目の粗い青のセーターを下着諸共にジャキジャキと切り裂いた。
「安くなかったんだがな…」
はさみを机上に戻すと嘆息を洩らす竜軌の胸に触れ、唇を寄せて吸い、まずは痣を残す。
私の獲物だと刻印するように。
「…上手くなったじゃないか。お前らしい選択だな、美羽」
竜軌の身体によじ登り、耳元で囁いた。
「りゅ・う・き、」
たっぷりの砂糖と、たっぷりの毒と、媚薬を混ぜ込んだ声。
爛々としたまなことまなこを合わせる。
狂っているのであれば。
(愛さずにはいられないでしょう、竜軌?)
美羽は昂然と笑む。
「俺に勝つのは容易じゃないぞ、美羽。経験値が違うからな」
美羽は竜軌の言葉を嗤う。
(何人の女性を知っていても、あなたが溺れるのは私だけ)
「確かに、堪らんな」
嗤う美羽の唇に、竜軌はかぶりつかずにいられなかった。
(ほらね)
ず、ず、と畳の上に二人の身体が滑る。
「お前、俺を廃人にするつもりか」
(違う、食べるつもり)
なのに食べられる側である竜軌が上にいるのは不自然だと眉をしかめる。
「喰うか喰われるかなんだろう?嫌なら自力で上になれ」
美羽は竜軌に馬乗りになった。加減をして竜軌がそれを許したと気付いて悔しくなる。
竜軌の顎を乱暴に挟み、乱暴になぶるように唇を貪る。
は、と息を吐いた瞬間、竜軌に頭を押さえつけられまた唇に逆戻り。
竜軌は美羽よりも深く舌で美羽の口中を抉った。美羽はえずく手前まで行く。
「……っあ…、…」
必死に息を吸う美羽の唇を、今度は竜軌がなぶるように荒く噛んだ。
「そういう声は出せるようになったな、美羽。良い傾向だ。もっと聴かせろ」
言いながら今度は竜軌が、美羽の衣服を脱がせにかかる。彼の腕力を以てすればはさみを使う必要もない。
「お前が積極的な女で嬉しいぞ。愛し甲斐がある」
そうか、と美羽は悟った。竜軌はこれを待っていたのだ。
怒った美羽が自分から仕掛けて来ると読んで。
美羽はまんまと竜軌の術中に嵌まった。
「骨の髄まで愛してやろう。大丈夫だ、美羽。今度は乱暴にしない」
竜軌は笑顔でそう言い、下着姿の美羽を組み伏せた。




