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 額に置かれた手が誰のものであるのか、考えるより先に真白には判る。

 空気のように生まれ育った。

(…私のお日様)

「しろ。……きついか」

「荒太君を怒らないで、剣護」

「……」

「私が、日曜日にデートしたいって無理を言ったからなの」

「うん。解った。怒らない」

 緑の目が請け負う。剣護の優先順位は昔から不動だ。

「―――――――兵庫、」

「いますよ」

 真白が呼ぶと寝室の入口近くから声がする。首を巡らせればいつも通りの立ち姿がある。

「私もいます、真白様!」

 だみ声の猫がにょ、と顔と右手を突き出す。道理でお布団が重いと思ったと真白は山尾を見る。右手の肉球を見ると心が和む。

「お、起きたのか、山尾」

「いえ、寝ておりませんでしたよ、剣護様」

 グレーの猫は真剣な顔で主張する。

「うん?まだ寝言を言ってるのか」

 真白が笑う。

 良かった。剣護と二人きりではない。

 荒太を裏切っていない。

「…お粥作って、荒太君」

 言うと真白はまた目を閉じた。寝息が聴こえる。

「俺は荒太君じゃない…」

 剣護は肩を落として顔を両手で覆い項垂れていた。色濃い哀愁が漂う。

「あれです、熱のせいですよ。剣護様」

「こいつがちっこいころから、粥を作ってあげてたのはお兄ちゃんなのに」

「熱のせいですよ、剣護様」

 山尾も兵庫に倣いフォローする。

「……剣護………いすき…」

 真白の小さな寝言に三名が目を剥く。

 剣護がババッと一人と一匹に視線を走らせた。両名は彼から反射的に目を逸らした。

 緑の瞳がキラキラ輝いている。

「ねえ、今、真白、俺のこと大好きって言ったよねえ!言ったよねえっ!?」

 病床にいることを忘れた興奮の仕様だ。

「あれです、熱のせいですよ。剣護様」

「熱のせいですよ、剣護様」

 山尾も兵庫に倣う。

「いーや、間違いなく言った、荒太と婚約して以来、とんと言ってくれなくなった愛の言霊を俺はこの耳で聴きましたっビバ風邪!!」

 数秒前とは一転して剣護が両手を広げ、万歳のポーズを取る。騒がしい声に眠る真白が眉根を寄せた。

「伊助さんと呼んだのでは」

「それだ、山尾」

 兵庫が正解、と言うように山尾を指差すと剣護が怪訝な顔をする。

「誰だよ、伊助さんて」

「私の知る限り吾助の甥でございますね」

「それだ、山尾」

「誰だよ、吾助さんて」

「そこまでは存じ上げません」

「最後まで粘れよ、山尾」

「ねえ、誰、吾助さんて」

 剣護は尚も追及する。

「…荒太君」

 真白の寝言が絶妙のタイミングで会話に落とし込まれた。

「え?荒太って吾助だったの?嵐じゃないの?」

 剣護が山尾を振り返る。

「そうだったっけ、兵庫?」

 尻尾を振りながら悩むように首をひねった山尾に訊かれて、兵庫も咄嗟に混乱する。

「ん?え、違うだろう」

「荒太の甥が伊助さん?」

「そうだったっけ、兵庫?」

「……さあ」



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