居酒屋日記
居酒屋日記
その日、情報屋稼業も営む居酒屋は、閑古鳥が鳴いていた。
歓楽街の一角。日曜の晩、カウンターに客がたったの三名。
「神気くせえ奴らは営業妨害だ、妖の客が来ねえだろうが。飲んだら早く出てけ、お前ら」
「はあ……」
「……ふう」
溜め息の主は剣護と竜軌である。
強面の店主がやってられんと眉間に皺を寄せる。
「辛気くせえ!」
「上手いな、店主。何なら貸し切るぶんの金を支払うが」
「うちは貸し切りはお断りだ、信長」
「大将、もう一杯。それからシロ、ゲソ、えのきのベーコン巻、二本ずつね」
「お前はとっととツケを払え、剣護」
「店主、酒だ。美味けりゃ何でも良い」
「じゃあ魔王だな」
「口の達者な店主だ、芋焼酎か。まあ良かろう」
「それで、そこの濃姫さんは?」
「こいつはまだ未成年だ。ソフトドリンクでもやってくれ」
竜軌が怒り顔でも腕に張り付いている美羽を見て言う。
「未成年を飲み屋に連れて来るんじゃねえよ。なってねえな、織田信長も」
「美羽は俺から離れると生きていけんのだ」
「のろけは他所でやれ。…何でお前がダメージ受けてる、剣護」
「俺は真白から離れると生きて行けないんだ、大将……」
「うざい奴。門倉、お前はれっきとしたマゾだな。愛する女が他の男とベッドを共にしている下に住んで何が嬉しい。マゾで変態だ。……上からそういう物音とか真白の声とか洩れて来んのか?」
「いじめ撲滅運動推進中。美羽さんもこれが相手で気の毒にな。離れられないって呪いだろ、マジで」
「…頷くな、美羽」
〝こいつ私の身体をいいようにした〟
美羽が店に入り、初めて剣護たちに見せたメモ帳の文面である。
店主と剣護が竜軌を見る。
「待ちなさい、美羽」
〝散々好き勝手してもてあそんで、私はついにお布団に気絶した〟
店主と剣護の目に著しい非難の色が宿る。
この莫迦娘には恥じらいが無いのかと竜軌は思う。
「おい、おいおい、新庄。そんなことしたのかお前は。美羽さんはまだ少女だぞ?斑鳩さんにしょっぴかれるぞ」
「全くだ。よくそれで濃姫は、まだひっついてられるな」
〝悪の呪い〟
「愛の呪いと言え、美羽」
美羽が明かした話は正真正銘、事実なので、竜軌も否定出来ない。
(ひでえことされても好きなのか、美羽さんは)
剣護はもしゃもしゃと口を動かしながら考える。
現に彼女は悔しそうに俯きながら、竜軌の腕から手を離さない。
(良いなあ。俺は真白にひどいことなんて絶対したくないけど)
剣護、と笑って呼んでくれるだけで十分だ。
例えその隣に荒太がいても。
「新庄」
「何だ」
「懐が寒いので奢ってくれ」
「情けない台詞を恥ずかしげもなく言うな」
「俺は色男で力はあるが金が無いんだ」
「気の毒にな。俺は色男で力も金もある」
「嫌な奴ぅー。美羽さん、呪い解いて別れちゃいなよ」
〝目下思案中〟
「美羽」




