みそかごと
みそかごと
携帯の鳴る音が寝室にも聴こえた。
身動きした真白の手首を荒太が掴む。
「…だって、行かないと」
「行かせない。裸で風邪ひくよ」
「何か羽織って行くわ、緊急の用事だったら」
「なら俺の携帯か固定電話も鳴ってる筈だ」
囁き声が行き交う。
「………で、も」
深くくちづけされ続きが言えない。
「真白…」
妻と愛し合う時、ごくたまに、荒太は妻を真白と呼ぶ。
「真白。余所見しないで」
着信音はまだ鳴っている。
「何でもあげるよ。だから俺を選んで、ずっと」
「……ん、…で、る」
「揺れないで。俺、嫉妬深いから」
「…こう、た」
「揺れてるの見えると、苛めたくなる」
真白の目に光る涙を、憐れむように見つめる。
「泣いても許さない。刺激されるばかりだし。真白さん、こういうとこ、学習しないよね。男が解ってないのに煽ってしまうって厄介。ねえ?」
「………どして……」
荒太は囁きながら真白の肌に触れ続けている。指で、唇で。
「何が?」
「わかんない。優しいのに、…ん、ん…意地悪に、」
「何でだろう。性分かな」
「あ…、あいしてる、のに」
「俺のほうがずっと愛してるって、まだ解ってくれてないのなら」
着信音は切れた。
「これから解ってもらうよ、真白さん」




